これまで「ダヴィンチ」に半ば独占されてきた手術支援ロボット市場で、初の国産品である「hinotori」が注目を集めている。「ダヴィンチ1強体制」に、「hinotori」はどう挑むのか?(江田憲治=Beyond Health)

*以降の内容は、2021年3月3日に掲載した記事の再録です。肩書・社名、事実関係などは原則、掲載時のままとしています。

 国産の手術支援ロボットとして注目を集めている「hinotori」。メディカロイド(川崎重工業とシスメックスの共同出資企業)が開発し、2020年8月に製造販売承認を取得した(関連記事:国産手術支援ロボット「hinotori」は、巨人「ダヴィンチ」を凌げるか?)。同年12月には、hinotoriを使った1例目の手術が実施された。

 この手術を執刀し、hinotoriの開発にも携わったのが、神戸大学大学院医学研究科 研究科長 腎泌尿器科学分野教授の藤澤正人氏だ。同氏は、2021年2月19日にオンライン配信で開催された「5Gエコノミー2021」(主催は日本経済新聞社、日経BP)のリレー対談に参加。「AI×5G×手術用ロボットが拓く未来医療」をテーマに、hinotoriの今後の展望などについて語った。

神戸大学大学院医学研究科 研究科長 腎泌尿器科学分野教授 藤澤正人氏(写真:「5Gエコノミー2021」から画面キャプチャ)
神戸大学大学院医学研究科 研究科長 腎泌尿器科学分野教授 藤澤正人氏(写真:「5Gエコノミー2021」から画面キャプチャ)
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 藤澤氏がhinotoriを使って実施したのは、前立腺がん摘出手術。泌尿器科の手術では、手術支援ロボットが急速に普及している。海外製の手術支援ロボットとして「da Vinci(ダヴィンチ)」が有名で、「世界中の病院のさまざまな診療科で3000台以上も利用されている」(藤澤氏)。

 hinotoriは医師の腕となる部分をロボットのアームで代用し、そのアームを離れた場所にあるコックピットから動かすことで手術を行う。手術の状況を確認する映像は、手振れのない鮮明な3D映像によって映し出されるほか、アームの関節の動きもスムーズで操作性が高いことから、「これまでよりも精緻な手術が可能になる」と藤澤氏は評価する。

国産初の手術支援ロボット「hinotori」の概要(出所:神戸大学、以下同)
国産初の手術支援ロボット「hinotori」の概要(出所:神戸大学、以下同)
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 基本的な仕組みや機能性などはda Vinciと「大きくは変わらない」が、藤澤氏はhinotoriの優位性として、コンパクトかつ冗長軸を持つアームの「操作性の高さ」、手術における「操作スペースの確保のしやすさ」などを挙げる。さらに“国産”という点から、今後の新しい展開において「関連企業と連携しやすい」という点を付け加えた。

5Gを利用できるようになれば…

 hinotoriをはじめとする手術支援ロボットの利用にあたって、今後大きく期待されるのが「遠隔指導」や「遠隔手術」である。これらを実現できれば、医療の地域格差の改善にもつながることになる。

 もちろん、米国や中国などと比べれば日本の国土はそれほど広くないため、手術の指導にあたって「飛行機や電車を利用しても、それほど膨大な時間がかかるわけではない」(藤澤氏)。しかし、現状のコロナ禍や緊急の災害時においては、離れた場所からの手術支援が大きな一助となるだろう。

 また、若い医師が非常に難しい手術をしなければならないケースにおいて、離れた場所から専門医師による指導や提案ができれば「確実かつ質の高い手術が可能になる」こともメリットだと藤澤氏は考える。さらに将来的には、国際連携によって海外の著名な医師に、困難な手術を担当してもらうようなケースもあり得るだろう。

 こうした遠隔指導や遠隔手術の実現において、大きな役割を果たすのが高速・大容量通信を可能にする次世代移動通信システム「5G」である。そもそも、現状では手術支援ロボットが置かれている手術室とそれを操作するコックピットは、同じ病院内にあって3~4m程度しか離れておらず、しかもそれぞれが有線でつながれている状況だ。しかし、5Gを利用できるようになれば、手術室とコックピットが遠く離れた場所にあっても、アームの操作や技術指導が可能になる。

5Gを利用した「遠隔指導」と「遠隔手術」のイメージ
5Gを利用した「遠隔指導」と「遠隔手術」のイメージ
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 藤澤氏はこれまでに、光ファイバーを利用した遠隔での手術支援を行った経験もあるそうだ。しかし、そのような環境でも「通信の遅延は起きた」そうで、「非常に問題だった」と振り返る。遠隔指導であれば「ゆっくり進めたり待ったりする」ことも不可能ではないが、遠隔手術では「この遅延が致命的になる」からだ。

 また、手術の状況を確認する映像の画質は現在「フルHD」だが、今後はさらに高精細な「4K」や「8K」になることが予想される。さらに、セキュリティの問題も避けては通れない問題だ。その意味で、高速かつ大容量な通信を可能にして「遅延を可能な限り小さくし、しかもセキュリティ対策も備えていることが、今後は求められる」と藤澤氏は指摘する。

 例えば、高層ビルなどの影響によって通信が一瞬でも途絶えるような環境だと、遠隔手術であれば安全性に影響する。それだけに藤澤氏は、まずは近場で模型を使った遠隔手術を実施し、「遅延なく操作できるか」「セキュリティに問題はないか」などを検証することを提案。そこで問題なければ、次のステップとして「動物での検証」や「より遠い場所」での遠隔手術に移行し、段階を踏んで最終的に患者での遠隔手術にたどり着くべきと考えている。そのため、実現までの道のりは「まだまだ長い」と訴える。

これが今後のhinotori開発展望

 手術支援ロボットシステムについては、基本機能が完成し、先端的機能の開発段階に進んでいる状況にある。今後のhinotoriの開発について藤澤氏は、「企業との連携をできる限りしっかりと密に取り、現場のニーズに合った機能を付加していく」という。例えば、執刀医のニーズに合わせた手術器具やロボットに連動する手術台、アノテーション(手書き指導)器具などを開発していくほか、hinotoriを使ったベテラン医師の匠の技をログデータから解析することで、それを利用した技術評価や手術指導にもつなげていく想定だ。

次世代手術支援ロボットシステム開発の展望
次世代手術支援ロボットシステム開発の展望
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 最終的な視野としては「自律制御された未来型ロボット」を見据えている。もちろん、「データをAI解析したからといって、手術のすべてを自動化できるわけではない」と藤澤氏は補足するが、「一部分の自動化など、簡単な操作を自律制御で行うことは可能だろう」と長期的なスパンで期待する。

 一方、制度面においてはオンライン診療と同様に、「診療報酬の改定などを含めた法整備が必要だ」と指摘。診療報酬がなければ実現は難しいことから、技術の安定化にともなって「制度設計も進めなければならない」と付け加えた。

(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)