長野県上田市のイイジマ薬局は、2020年より薬局ロボット「BD Rowa Vmaxシステム」を導入している。導入の目的は「地域のための薬局であり続けるため」だ。古き良き薬局は今、先端技術を活用し、未来への進化を目指す。(江田 憲治=Beyond Health)

*以降の内容は、2020年9月18日に掲載した記事の再録です。肩書・社名、事実関係などは原則、掲載時のままとしています。

Beyond Healthは、「健康で幸福な人生100年時代を可能にする」社会を描くためのビジョンとして「空間×ヘルスケア 2030」を提案していく。このほど、それを実現するための新プロジェクト「ビジョナリー・フラッグ・プロジェクト(VFP)」をスタートさせた(関連記事:目指すは「空間×ヘルスケア」の社会実装)。

その一つとして描いた未来の薬局「Beyond Pharmacy」では、薬局は未病の改善を推し進める社会の“ハブ”に、薬剤師は「ヘルスケア・マイスター」へと変貌することを示した(関連記事:さらば“薬局・薬剤師”、いざ「Beyond Pharmacy」)。しかし、こうした姿に向けては、“従来の薬局・薬剤師の業務”を効率化し、より多くの生活者に対峙できるようにしなければならない。

長野県上田市にあるイイジマ薬局は、このほど薬局ロボットを導入。国内初となるOTC医薬品向け大型タッチディスプレイも取り入れた。医薬分業による門前薬局型の調剤薬局ではく、元々、地域の生活者や患者のファーストアクセスの場として機能してきたことで知られる同薬局。その“古き良き”側面に、ロボットを組み合わせることで実現する世界を追った。

(写真:小口 正貴、以下同)
(写真:小口 正貴、以下同)
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 人口15万3千人、長野県第三の都市である長野県上田市。真田氏が築いた上田城のお膝元として全国的に知られ、近年では2016年の大河ドラマ『真田丸』で脚光を浴びた。

 他方、上田市は市民の間にかかりつけ薬局が浸透しているモデル地域としても名を馳せる。複数の病院・クリニックの処方せんを受け入れる面分業の薬局が多数を占め、2015年の「患者のための薬局ビジョン」で示された“対物業務から対人業務へ”の姿勢を以前から貫くなど、地域密着型薬局の充実を図ってきた。

 上田薬剤師会で中心的な役割を果たしてきたのがイイジマ薬局だ。処方薬、OTC医薬品(一般医薬品)、衛生材料(包帯、絆創膏、マスクなど)、日用品を取り扱う同薬局は“専門性と利便性”を標榜し、サービスの質に加え、薬剤師の職能意識向上に努めてきた。

長野県上田市のイイジマ薬局
長野県上田市のイイジマ薬局
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 サービスを支える手段として積極的にIT機器を導入していることも特徴の1つ。例えば服薬指導や薬歴をクラウドで確認できる「DrugstarLeadクラウド薬歴」は、薬剤師の業務効率化に広く貢献している。

“うなぎの寝床”からロボットアームがキビキビと薬をピックアップ

 そのイイジマ薬局が2020年7月に導入したのが、日本BDが提供する薬局ロボット「BD Rowa Vmaxシステム」(以下、Vmax)だ。Vmaxでは処方薬、OTC医薬品双方を一元管理。薬局2階の小型倉庫に収められた薬剤箱を、ロボットアームが指示に従って自動で入庫・払い出しなどを行う仕組みである。

薬局ロボットのBD Rowa Vmax システム。イイジマ薬局では店舗の2階を改装して設置した
薬局ロボットのBD Rowa Vmax システム。イイジマ薬局では店舗の2階を改装して設置した
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システムの管理画面。こちらで入庫、払い出し、保管、在庫管理などを操作
システムの管理画面。こちらで入庫、払い出し、保管、在庫管理などを操作
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 1階から発注すればらせん状のシューターを通じて薬が薬剤師のもとに届く。OTC医薬品の場合、早ければ5~6秒ほどで払い出され、患者にとってもストレスがない。

薬はらせん状のシューターを通って自動で薬剤師のもとへ払い出される。こちらは処方薬のシューター
薬はらせん状のシューターを通って自動で薬剤師のもとへ払い出される。こちらは処方薬のシューター
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 取材時、Vmaxに保管されていた処方薬、OTC医薬品は3546種類、6848箱。高さ2.62m×幅1.63m×奥行き5.55mと“うなぎの寝床”のような空間の左右棚にびっしりと薬剤箱が置かれ、ロボットアームがキビキビとした動きでそれらを移動したり、取り出したりしていく。

発注に従ってロボットアームがテキパキと薬を払い出す
発注に従ってロボットアームがテキパキと薬を払い出す
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 取り出し口は処方薬が4口、OTC医薬品が1口の合計5口で、どの取り出し口に払い出すかも自動で制御してミスなく実行する。入庫時にはバーコードを読み込んで有効期限を管理しており、「2020年8月に期限を迎える薬が17箱ある」といった内容もシステム管理画面でひと目でわかる。

これがOTC医薬品向けタッチディスプレイのメリット

 Vmaxと連動する形で導入したのが、同じく日本BDのOTC医薬品向け大型タッチディスプレイ「BD Rowa Vmotion デジタル・シェルフ」(以下、Vmotion)だ。Vmotionの導入は日本初の事例となる。

 Vmotionはリアルな薬剤棚に代わるバーチャルソリューションとして期待されている。イイジマ薬局 社長(有限会社飯島 代表取締役)の飯島裕也氏は、「きっかけは10年ほど前に、欧州の医療機器展示会で自動払い出し機とサイネージを目にしたこと。今後、この流れが加速すると考えた」と振り返る。その言葉を裏付けるように、グローバルではすでにVmaxが約1万台、Vmotionが約900台導入済みだ。

イイジマ薬局の飯島裕也氏
イイジマ薬局の飯島裕也氏
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 イイジマ薬局では、55インチディスプレイを合計4台導入した。活用に関する患者のメリットを、飯島氏は次のように説明する。

 「上田市はかかりつけ薬局に来る人が圧倒的に多い。そのため、OTC医薬品を購入するにしてもドラッグストアのように決め打ちで買うのではなく、薬剤師にきちんと相談するケースがほとんど。我々はまず患者の症状を丁寧にヒアリングして、その情報をもとに経過観察や受診勧奨などを判断する。その上でOTC医薬品で対応できる症状であれば勧めている。

 その際、これまではカウンター後方の陳列棚にある箱を1つ1つ手に取って説明していた。だが、箱の裏に小さな文字で書かれている成分を口頭で説明しても理解は難しい。Vmotionであれば添付文書を使いながら、用法・用量、効果・効能、成分・分量、副作用の注意事項などを大画面で情報提供できる。視覚的に多くの情報が得られるので理解が深まると、患者からの評判も上々だ」(飯島氏)。

採用中のディスプレイは4台。「あればあるほど助かる。もっと増やしたい」(飯島氏)
採用中のディスプレイは4台。「あればあるほど助かる。もっと増やしたい」(飯島氏)
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 飯島氏はその場で、2つの画面を駆使して鎮痛剤の比較を例示してみせた。OTC医薬品の中では「ロキソニンS」が有名で、CMで知ったり、周囲の評判を聞いたりして指名買いに来る患者が多数いる。「ただし、鎮痛剤にもいろんな種類がある。きちんと成分やリスクを説明し、似たタイプの鎮痛剤を並べて見せることで、どちらが自分にあっているかを検討できる。今後、セルフメディケーションの観点からOTC医薬品の重要性がますます高まる中、こうしたツールは薬剤師がきちんと責任を持って販売することにも一役買うに違いない」(飯島氏)。

Vmotionを使っての鎮痛剤の成分・分量の比較。比べることで選択肢が広がる可能性が出てくる
Vmotionを使っての鎮痛剤の成分・分量の比較。比べることで選択肢が広がる可能性が出てくる
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デリケートな症状で大画面での説明にためらいがある場合はタブレットを活用
デリケートな症状で大画面での説明にためらいがある場合はタブレットを活用
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 薬剤師にとってのメリットはどうか。まずは物理的に薬剤箱を並べる必要がなくなり、こまめな掃除がなくなったことが大きい。地味なようだが、ホコリや箱の日焼けは常に気を配る必要があるだけに、日々の工数削減に効いてくる。また、OTC医薬品は第1類医薬品、第2類医薬品、第3類医薬品とリスク別分類による陳列が義務付けられているが、これもバーチャルで写真を並べて完結するため非常に容易になった。

 ロボットシステムとの連動で在庫管理が可視化されたことも見逃せない。ドラッグストアの陳列でわかるようにOTC医薬品はたくさん並べておくのが定石であり、その結果、在庫の適正化が難しくなり期限管理も把握しにくくなる。「だがVmaxはシステム任せで円滑に管理できる。導入後の棚卸しも劇的に楽になることが目に見えている。薬剤師の中には、1kmも移動距離が減ったスタッフもいた。今まではそれだけ薬局内を歩いていたということ。これは明らかにデジタル化の恩恵だ」(飯島氏)。

デジタル化したところに、薬剤師の能力を組み合わせる

 効率化によって空いた時間やリソースは、従来どおりの手厚い対人業務やさらなるサービス向上に充てる。今年中にはVmaxのオプションである「BD Rowa ピックアップターミナル」を設置し、営業時間外でも服薬指導済みの薬剤を受け取れるようにするなど、さらなるIT化を計画している。陳列棚を撤去して空いたスペースには新たに無菌調剤室を設け、より高度な調剤ができるよう整備した。

陳列棚の撤去によって空いたスペースには無菌調剤室を新設
陳列棚の撤去によって空いたスペースには無菌調剤室を新設
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 その根本には、先に記したように“地域のための薬局でありたい”との強い意思がある。新型コロナの影響で薬局を訪問する患者が減少する中、イイジマ薬局では薬剤師が月平均100軒ほどの自宅訪問を実施している。「ご自宅を訪問して部屋の様子から得られる情報はたくさんある。モニター越しに相談しても細かいことまではわからない。デジタル化による利便性追求とともに、薬剤師の能力を組み合わせることが重要だと考えている」(飯島氏)。

飯島氏は「デジタル×薬剤師の知恵」の融合が欠かせないと語る
飯島氏は「デジタル×薬剤師の知恵」の融合が欠かせないと語る
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 「ここまで医薬分業が進む前は、我々のような薬局がほとんどだった。処方薬、OTC医薬品、衛生材料、医療雑貨が置かれ、まるでコンビニに薬が加わった親しみやすさがあり、皆さんが足を運んでくれた。それが今は処方薬は門前薬局、OTC医薬品はドラッグストアと明確に切り離されている。

 しかしイイジマ薬局のような形態を維持すれば、患者のファーストアクセスの場所になる。風邪をひいても、蜂に刺されても、指を切っても、処方箋をもらってもここに来れば何とかなる。絆創膏1つを買いに来た人にもファーストエイドの拠点として受診勧奨したり、健康相談に乗ったりすることができる。上田市以外の人は驚かれるかもしれないが、本来はそうあるべきだろう」(飯島氏)。

(タイトル部のImage:jozefmicic -stock.adobe.com)