支援や介護が必要になる原因の第1位は「運動器の障害」。フレイルに打ち勝ち、健康寿命を延ばすためには、自分の足で歩き続けることが重要な意味を持つ。その支援役として期待されるのが「歩行トレーニングロボット」。従来型のリハビリ用訓練機器とは一線を画すサポートを行う。(江田 憲治=Beyond Health)

*以降の内容は、2021年4月28日に掲載した記事の再録です。肩書・社名、事実関係などは原則、掲載時のままとしています。

 パナソニックは、介護・福祉施設や病院などに向け、歩行に不安を感じる高齢者への継続的な歩行トレーニングを支援するロボットを使った「歩行トレーニング支援サービス」の提供を開始した。ロボットを押して歩くと、その人の歩行能力に合わせた負荷や目標距離・時間のトレーニングを実施する。トレーニング結果は自動で計測・記録されてクラウド上のサーバーに蓄積され、施設スタッフの管理業務負担軽減にもなるとする。

「歩行トレーニング支援サービス」では歩行トレーニングロボット「Walk training robo」(KY-WTR502S)をリースする。同ロボットはパーソナルケアロボット(生活支援ロボット)の安全性に関する国際規格「ISO 13482」を取得している(出所:パナソニック)
「歩行トレーニング支援サービス」では歩行トレーニングロボット「Walk training robo」(KY-WTR502S)をリースする。同ロボットはパーソナルケアロボット(生活支援ロボット)の安全性に関する国際規格「ISO 13482」を取得している(出所:パナソニック)
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 歩行トレーニングロボット「Walk training robo」(KY-WTR502S)は、ハンドルを押しながら歩くと、進む方向と逆向きにモーターでAI(人工知能)によりユーザーに合わせ最適化した運動負荷を与えるというもの。通常歩行に比べて標準で約50%運動強度が増すように負荷が加わる。ハンドルを押すので、下半身だけでなく上半身を含めた全身運動になるとする。

 ハンドルや車輪にセンサーを内蔵している。ハンドルに加わる力や車輪の回転情報などの各ユーザーの利用データを自動で計測してサーバーに蓄積し、速度や継続性、左右バランスといった歩行能力を推測し、運動負荷や歩行時間、距離といった目標を最適化する仕組みだ。利用者や施設スタッフが計測を意識することなく、使い続ければ自動的に学習されトレーニング内容が最適化されていく。

 個人設定はハンドル中央下部のカードリーダー部分にIDカードをタッチすることで呼び出される。ハンドル高さはあらかじめ登録した身長に基づいて自動で調整され、目標の歩行距離や時間なども自動で提示されるので、利用者交代時の準備は不要で効率的な運用が可能とする。

 歩行トレーニング終了時(目標達成時や終了選択時)には本体画面でトレーニングの結果を表示し、運動のモチベーション維持に役立てられるとする。本体は4G回線でインターネットに接続されており、データはクラウドサーバーにも自動で転送される。データを分かりやすくまとめたPDFを出力してユーザー本人や家族のモチベーションアップに役立てられるほか、施設スタッフは管理画面からトレーニング結果を一元管理したり、データを記録や報告書などの作成に利用したりできる。

「歩行トレーニング支援サービス」のイメージ図(出所:パナソニック)
「歩行トレーニング支援サービス」のイメージ図(出所:パナソニック)
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実用化は「シンプル機能で使いやすく」がカギに

 日本では健康で自立した生活を送れる「健康寿命」と「平均寿命」の差が9年以上に及ぶ点が課題となっている。そこで少しでも健康寿命を延伸しようと、適切な活動やトレーニングにより自立した日常生活維持に向けた自立支援型介護が2021年度介護報酬改定でも強化されるなど、“自立”が注目を集める。自立を実現する上で重要となるのが、日常生活行動の起点ともなる「歩行」だ。一方で高齢になるほど外出頻度が低下し、歩行の機会が減少することが明らかになっている。

 また従来、歩行能力が低下した人や歩行に障害がある人に向けたリハビリテーションとしての歩行トレーニング機器は多数存在しているものの、日常生活で利用することは想定されていない。リハビリテーション後や老化に伴い歩行に不安を感じる人に向けた機器は歩行を補助する歩行器などがあるが、日常的なトレーニングとして使える機器はほとんどない。同社ではこの点に注目し、今回の製品を開発したとする。

 同社では2015年からAIを活用した歩行トレーニングロボットの開発、実証実験を行ってきた。実証実験などを通じてユーザーとなる高齢者や施設スタッフの要望を調査し、シンプルで手軽に使えるよう、用途を施設での歩行トレーニングに特化して機能を絞り込むことで価格を抑えたほか、より使いやすいようにハンドルの自動昇降機能を追加したり小型化したりといった変更を施したとする。

同ロボットのハンドルは、太く握りやすい形状でヒジを載せて体を支えられる設計を採用している。音声ガイド等はなく、利用時は音楽が流れるのみ。トレーニング時の画面もシンプルで分かりやすいようにした(出所:パナソニック)
同ロボットのハンドルは、太く握りやすい形状でヒジを載せて体を支えられる設計を採用している。音声ガイド等はなく、利用時は音楽が流れるのみ。トレーニング時の画面もシンプルで分かりやすいようにした(出所:パナソニック)
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 実際にデイサービスセンターの利用者でほかに運動する機会を持たない要介護2の男女2人に9カ月間利用してもらったところ、歩行速度の改善などが見られたという。「こうした高齢者の場合、何もしなければ9カ月というわずかな期間でも要介護度は上がっていくのが一般的。それに対して、今回の事例では身体機能がわずかでも向上することが確認できた」(パナソニック テクノロジー本部 事業開発室 アクティブエイジングデザインプロジェクト 主幹の山田和範氏)。

 歩行トレーニングを継続的に続けてもらえたうえ、定期的に計測するため、日々の上下変動があっても長期間の傾向が読み取れることも確認できたという。このほか、実証実験では車椅子を利用していた人が同ロボットを見て「歩いてみたい」と歩行トレーニングにチャレンジしたり、転倒により車椅子を使っていた人が歩行に戻れたりする事例もあったとする。

 同サービスは受付を2021年4月27日に開始している。ロボットはサービス利用に伴いパナソニックからリースされる形となり、1台あたりの初期費用は25万円、月額サービス料は3万円(3年契約)、IDカード50人分を利用できる。利用検討に向けた試用サービスも行っている。

 今後は、歩行による認知症状の改善効果などに関して研究を進めていくほか、トレーニングのデータを家族に向けて見える化するサービスの改善や、個人向けの同様の製品、屋外向け製品などを検討しているとする。

(タイトル部のImage:出所はパナソニック)