GLS1阻害薬により120歳まで元気に生きられる可能性も

 中西教授らが行った実験によれば、老化マウス以外でも、様々な肥満に伴う生活習慣病モデルマウスにGLS1阻害薬を投与すると、2型糖尿病、動脈硬化、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)も改善することも分かっている(※1)。NASHは、過食や肥満といったアルコール以外の要因により、肝臓に脂肪が蓄積して炎症や線維化が起こる病気だ。肝臓は〝沈黙の臓器″と呼ばれ、自覚症状がほとんどないまま、肝硬変や肝臓がんに進行することも少なくない。GLS1阻害薬を用いて老化細胞を取り除くことで、NASHや動脈硬化など、過食による肥満に伴って起こる様々な病気や臓器などの機能低下を、一挙に改善できる可能性があるということだ。まだマウスでの実験段階だが、ヒトへの効果はどうなのだろうか。

 この問いに対し中西教授は、「GLS1阻害薬を用いて老化細胞を取り除くことで、将来的には、ヒトの老化が“治る病気”になることを期待しています。GLS1という酵素の発現は、ヒトでも、加齢に伴って増加することが分かっています。GLS1阻害薬を用いれば老化によって増加する病気の発症が抑えられ、最大寿命の120歳くらいまで元気に生きられるようになる可能性があると思います。まずは、現在有効な治療法のないNASHの患者さんにGLS1阻害薬を投与する臨床試験を開始し、ヒトへの効果を検証していきたいと考えています」と話す。

 GLS1阻害薬は既に内服薬として製剤化されて、米国ではがん患者に対する治験に用いられ、ヒトへの安全性は確認されている。この製剤を使うことができれば、1~2年以内にNASHの臨床試験を開始できる可能性もあるという。GLS1阻害薬は、NASH以外にも、2型糖尿病、腎不全、動脈硬化、慢性閉そく性肺疾患(COPD)など様々な加齢性疾患や生活習慣病の治療にも役立つ可能性がある。

 この薬が画期的なのは、老化細胞のような異常な細胞だけを選択的に除去し、正常な細胞は攻撃しない点だ。これまで米国などで開発されてきた老化細胞除去薬は、特定種類の老化細胞をターゲットとしたものである上、正常な細胞まで殺してしまう可能性も指摘されていた。

 「少し専門的な話になりますが、GLS1阻害薬によって除去されるのは、細胞中にあるリソソーム(異常なタンパク質の処理を行う役目を持つ小器官)という小器官のうち、膜に損傷ができている細胞です。リソソームの膜に損傷があると細胞内が酸性化して強い炎症性の物質を分泌します。酸性化した細胞は通常は細胞死しますが、老化細胞はGLS1酵素のタンパク質を増やしてアンモニアを産生し、細胞内酸性化を中和させることで生き延びています。従って、GLS1酵素の働きを阻害すれば、細胞は生き延びられなくなり、老化による臓器や組織の低下も防げるのではないかと考えました。老化細胞の多くはリソソームの膜が壊れているため、GLS1阻害薬を用いれば、正常な細胞は傷つけずに、多様な老化細胞を一網打尽に除去できるのです」

「GLS1阻害薬で老化による病気の発症が抑えられれば、120歳くらいまで元気に生きられるようになる可能性がある」と中西教授
「GLS1阻害薬で老化による病気の発症が抑えられれば、120歳くらいまで元気に生きられるようになる可能性がある」と中西教授
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