老化制御を実現する科学的アプローチの1つとして「オートファジー(Autophagy)」が注目を集めている。オートファジーは、細胞が自身内のたんぱく質を分解し、新陳代謝などを行ったりするための「リサイクルシステム」である。
2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士による研究をきっかけに、老化との関りについての研究が急速に進み、現在では加齢現象を細胞レベルで理解するのに欠かせない科学であると考えられている。研究成果の社会実装への期待も大きい。
大隅博士の“一番弟子”で哺乳類におけるオートファジー研究の第一人者である大阪大学の吉森保教授は「基礎研究で世界をリードしてきた日本が、社会実装でも世界をリードするため、産官学のオールジャパンで取り組みたい」と、2020年に一般社団法人日本オートファジーコンソーシアムを設立した。
オートファジーで細胞を新品状態に保つ
オートファジーは日本語で「自食作用」と訳され、1963年に細胞生物学者クリスチャン・ド・デューブ氏により定義された。1993年、大隅博士が細胞生理学の研究で広く使われる酵母にもあることを初めて観察したことをきっかけに、その仕組みが分子レベルで研究できるようになった。
大阪大学の吉森保教授は「生物の細胞は、自身を健康な状態に保つために強力な仕組みを持っている。その最も重要な仕組みがオートファジーで、細胞内のたんぱく質を消化・分解し、得られたアミノ酸で新たなたんぱく質を合成。このリサイクルシステムによって細胞をいつも新品の状態に保つことができる。また飢餓状態に陥ったときの栄養源確保や、細菌やウイルスの攻撃を防ぐ働きも持っている」と解説する。
酵母による研究をきっかけに、実際に細胞内で起こっている現象も分かってきた(図1)。
オートファジーが始まるとき、細胞内には隔離膜という平たい膜ができる。膜は形を変えながら伸びて、内部の細胞小器官(オルガネラ:小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリアなど)やたんぱく質などを包んでいく。壺状になった膜は、やがて閉じて球体の袋であるオートファゴソームとなり、細胞内の分解工場であるリソソームに運ばれる。ここでたんぱく質はアミノ酸に分解され、再利用されていくという仕組みだ。