安全性や柔軟性などに優れるワクチンのメリット

 ここで、老化細胞除去薬と老化細胞除去ワクチンの違いについて見てみよう。老化細胞除去薬は、既に米国を中心に世界中で開発が進められており、白血病の治療などに用いられる抗がん剤のダサチニブと食品成分のケルセチンを組み合わせた老化細胞除去薬など、ヒトへの投与が始まっているものもある。「日本は老化研究と社会実装で、遅れを取っている」と指摘する南野教授が、あえて老化細胞除去ワクチンの開発に挑むのは、なぜなのだろうか。

 「現在、米国などで開発されている老化細胞除去薬のほとんどは抗がん剤を用いたもので、正常細胞にも悪影響を与える懸念があるからです。私たちが開発中の老化細胞除去ワクチンが標的にするGPNMBという老化抗原は、老化細胞に特異的に発現していて、正常細胞にはほとんどないものなので、接種による副作用も最小限にできると考えています。また、ワクチンは開発コストが抑えやすく、効果が比較的長期間続きます。1回接種すれば、効力が続く限り、本来その人が持っている免疫機能が強化される。つまり、長期間老化細胞が除去され続け、蓄積しにくくなるというメリットがあるのです」と南野教授。

 ①安全性、②柔軟性、③効率性を兼ね備えている点が、老化細胞除去ワクチンの特性のようだ。ただし、ヒトに応用する際には、特定の分子を標的にした抗体薬にするか、現在、国内外で接種が進められている新型コロナウイルスワクチンのようなmRNAワクチンにすることも検討中だという。

 「ファースト・イン・ヒューマンと呼ばれる初めてヒトに投与する臨床試験に入る前に、サルなどもう少しヒトに近い動物での試験が必要かもしれません。社会実装を進めるためにも、近いうちに老化細胞除去ワクチンを開発するベンチャー企業を立ち上げ、5年以内に、ヒトへの安全性を確認する臨床試験に入りたいと考えています。がんの治療に使われている免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(商品名・オプジーボ)が、最初に皮膚がんの一種のメラノーマ(悪性黒色腫)で承認を取って、肺がんなど患者数の多いがんへ適応を広げて行ったように、まずは早老症などの希少疾患や治療法が乏しい疾患の治療を目指して、老化細胞除去ワクチンの臨床試験に入れればと思います」

「老化細胞除去ワクチンには、老化細胞除去薬とは異なる特性があり、メリットも多い」と南野教授
「老化細胞除去ワクチンには、老化細胞除去薬とは異なる特性があり、メリットも多い」と南野教授
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