老化細胞の蓄積度の測定検査を5年以内に実用化へ

 南野教授は、がん細胞の広がりを見る検査として使われているPET-CTを用いてGPNMB陽性の老化細胞の分布や蓄積度合いをみることで体の老化度を測ることも構想中だ。

 「私たちの体の中にはさまざまな種類の老化細胞が存在していますが、現在は、どこにどんな老化細胞がどのくらい蓄積しているのか測定できないのが実情です。少なくとも、5年以内に、GPNMB陽性の老化細胞の蓄積度は測れるようにしたいと考えています。それぞれの老化細胞の蓄積度が測れるようになれば、GPNMB陽性の老化細胞が多い人にはGPNMB標的にした老化細胞除去ワクチン、他の老化抗原の発現が高い人にはそれを標的にした薬やワクチンを投与するといった具合に、老化の個別化治療が進むのではないでしょうか」と語る。

 そもそも南野教授が、老化制御研究に力を入れているのは、日々、狭心症や心筋梗塞、心筋症などの治療をする中で、動脈硬化や糖代謝異常を予防したり根本的に治療したりする方法はないものかと考えたのがきっかけだった。目指しているのは、「老化細胞除去ワクチンの活用によって、70~80歳代になっても50歳代くらいの臓器や体の機能を維持する人が増え、健康寿命が延びる社会の実現」だ。

 老化研究にはまだまだ課題もある。フレイルや老化は、老化研究が世界的に進んだ米国でさえ、病気と位置付けられていない。

 「WHO(世界保健機関)の新しい国際疾患分類ICD-11(2022年発効)では、『老化関連疾患』を意味する拡張コードが新設されました。でも、フレイルや老化が治療すべき病気と認められない限り、日本の保険診療で老化細胞除去ワクチン、老化細胞除去薬が使えるようになるにはまだ時間がかかるのではないかと思います。そういう意味でも、まずは治療法が乏しい加齢関連疾患の治療を目的にしたワクチンや薬の開発からスタートしたいです」と南野教授。老化細胞除去治療の注目度が世界的にも高まる中、GPNMB陽性老化細胞除去ワクチンなどの社会実装を進めて行くことで、日本の老化研究の遅れを大幅に巻き返す覚悟だ。

Nature Aging 1, 1117-26,2021

南野徹(みなみの・とおる)氏
順天堂大学大学院医学研究科循環器内科教授
1989年千葉大学医学部卒業。ハーバード大学リサーチフェロー、千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学講師、新潟大学大学院医歯学綜合研究科循環器内科教授などを経て、2020年より現職。21年4月から同大大学院に先進老化制御学講座を開設。日本抗加齢医学会副理事長。ハーバード大留学時代から現在に至るまで、循環器内科診療と後進医師の育成と共に、老化制御研究に力を入れる

(タイトル部のImage:Getty Images)