抗老化研究の進展を背景に、成果の社会実装を図る老化制御ビジネスに注目が集まっている。世界の先頭を走るのは米国とされ、米グーグルが設立したキャリコ(Calico)などが知られているが、実態は掴みづらいのが実情だ。世界の老化ビジネスは、今どんな状況にあるのだろう。米国の老化ベンチャー事情に詳しい慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の早野元詞特任講師、創薬/バイオベンチャーの事業化支援などを手掛けるサイネス合同会社の三品聡範CEO、投資支援を行うINCJベンチャー・グロース投資グループの平野徳士アソシエイトの3氏による「特別リポート」を紹介しよう。

投資家の期待が高い老化制御ビジネス

 近年、老化制御ビジネスが世界で注目を集めている。その背景として、(1)老化研究によって健康寿命の延伸や予測が可能なことを示すエビデンスが充実してきたこと、(2)米国を中心とするバイオテック業界の活性化、(3)高齢社会への対策として抗老化を政策目標に組み込む国が増え補助金や支援が拡充していることなどが挙げられる。アカデミアや企業において、老化をテーマとした研究費は増加傾向である。例えば米国立老化研究所の予算は、2013年から2021年までの8年間で3倍以上となっている。

 これに応じるように研究成果も生まれており、例えば「老化」をキーワードに含む論文数は年々右肩上がりに増加している。2020 年、『MITテクノロジーレビュー』は「10 BreakthroughTechnologies 2020」の1つにアンチエイジング薬を挙げている(※1)。老化に関する優れた研究成果が生まれる中で、老化制御ビジネスに対する期待感が高まっている。

 こうした老化制御ビジネスへ早い段階から目をつけていたのが、米IT企業で大成功を収めたレジェンドたちであった。米Google社は、 Calicoという研究所を2013年に創設した。人々がより長く健康的な生活を送れるような治療法の開発を目的として、加齢や寿命をコントロールする因子を研究しており、米AbbVie 社と共同で15億ドルを投じている。

 2016年には、米Amazon社 のジェフ・ベゾス氏や米PayPal社のピーター・ティール氏が、老化細胞除去薬(セノリティクス)の開発を目指す米Unity Biotechnology社に投資をした。老化制御ビジネスは人類全ての人がターゲットとなる潜在性を秘めている。IT業界のレジェンド起業家たちは、老化ビジネスの立ち上がりに、ITビジネスの黎明期と同じ匂いを感じたのかもしれない。

表1●著名IT経営者・投資家たちの老化投資
表1●著名IT経営者・投資家たちの老化投資
(出所:筆者作成)
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 世界最高峰のベンチャーキャピタル(VC)の1つである米 Y Combinator社は、老化のコントロールを目指すスタートアップへの投資を明言している。また、Aging2.0のようなコミュニティがヘルスケア、金融、交通、住宅など、様々な産業の老化関連スタートアップを支援している。彼らは世界各国に拠点を持ち、有力なVCと協働して投資家のネットワークを作ることで、老化ビジネスのスタートアップに資金調達の機会を提供しようとしている(※2)。

 日本においても日本次世代型先進高齢社会研究機構(Aging Japan)が設立され、日本及びアジア発の老化ビジネスに向けてAging 2.0と連携しながらコミュニティの形成に取り組んでいる。