2020年に8万人を超えた日本の百寿者(100歳以上の人)の数は、2021年9月には8万6510人となり、51年連続で過去最多を更新している。そんな中、20年以上も継続して実施している「百寿者調査」や、110歳以上のスーパーセンチナリアン(超百寿者)に対する調査など、世界最大級の学術調査を通して、科学的な根拠に基づいた健康長寿の秘訣を探っているのが、慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターだ。百寿者や超百寿者の血液データなどから分かってきた「超健康長寿」の機序などについて、同センターの新井康通教授にインタビューした。

慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターの新井康通教授(写真:川田 雅宏、以下同)
慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターの新井康通教授(写真:川田 雅宏、以下同)
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心臓の老化を遅らせることが抗老化のカギ

 百寿者は、大正、昭和、平成という激動の時代を生き抜いてきただけではなく、90歳を超えても自分で身の回りのことができる人が多い健康長寿のモデルとなる高齢社会のエリートだ。中でも、スーパーセンチナリアンと呼ばれる110歳以上の超百寿者は超高齢社会の日本でも非常に少なく(2020年10月時点は141人)、その健康データは、抗老化のメカニズムの解明を後押しする貴重なものとして世界的にも注目されている。

 「これまでの我々の研究では、百寿者は、他の高齢者に比べて糖尿病や動脈硬化、認知症の有病率が低く体の中の慢性炎症が年齢の割には少ない、つまり、老化が遅いことが分かっています。そして、最近、スーパーセンチナリアン36人を含む100歳以上の896人と、85~99歳の531人の計1427人の血液データの解析と追跡調査の結果分かってきたのが、2つの血液バイオマーカーが生物的な老化のカギを握っていることです」と新井教授は話す。

 その1つは、心不全の診断に使われる検査数値の「NT-proBNP(N-terminal pro-brain natriuretic peptide/プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド)」だ。医療関係者以外には聞き慣れない言葉かもしれないが、NT-proBNP は心臓から血液中に分泌されるホルモンの一種で、全身へ血液を送るポンプ機能が低下するほど多く分泌され、数値が高くなる。一般的に、加齢と共に心臓の機能が低下するのは避けられないが、110歳以上まで長生きしたスーパーセンチナリアンは、100歳時点でのNT-proBNPの血中濃度が、他の百寿者より顕著に低かった(※1)。

 「スーパーセンチナリアンは、100歳時点でも介護が必要なく身の回りのことが自分でできる人が多く、健康長寿の超優等生です。NT-proBNPの上昇を緩やかにする、つまり、心臓の老化を遅らせることが寿命、さらには健康寿命を延ばすポイントだということです。では、心臓の老化を遅らせるにはどうしたらよいかということで、東京都在住の85~99歳の約540人の血液データと生活習慣の関係を調べたところ、定期的な運動を継続しているとNT-proBNPが低く抑えられ、心機能が保たれていることが分かりました。さすがに100歳を超えて運動をしている人は少ないのですが、85歳を過ぎても散歩や公園でのラジオ体操を日課にしていたり、ゴルフ、水泳、ジョギングなどの運動を定期的に行ったりしている高齢者は、心臓の老化が進みにくいのです」と新井教授。