腸と老化の関係を探る研究が加速している。この研究の第一人者である京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座の内藤裕二教授らが、100歳以上の人が多いことで知られる京都府京丹後市の高齢者の腸内細菌叢(腸内フローラ)を調べた結果からは、長寿のカギを握る腸内細菌の存在も明らかになってきた。また、日本人の腸内細菌叢を5つのタイプ(エンテロタイプ)に分類した研究では、その中に、老化との関わりが深い炎症性の病気になりやすいタイプがあることを解明した。脳と腸が密接な関係にある「脳腸相関」はよく知られるところだが、今後は「老腸相関」にも注目だ。研究で分かってきた腸と老化制御に関する最新の成果と、関連ビジネスの可能性について、内藤教授に聞いた。
長寿エリア、京丹後市の高齢者に多い酪酸産出菌
ヒトの腸には1000種類以上100兆個もの腸内細菌が棲みついており、近年、その腸内細菌叢と老化との関係に注目が集まっている。「最近の研究で老化と腸内細菌叢の関係性が次第に明らかになり、腸管の老化を制御することが健康長寿を実現するカギの1つである可能性が高まってきました」
そう話す内藤教授らが約7年前から進めているのが、100歳以上の百寿者が全国平均の約2.7倍多い長寿地域として知られる京都府京丹後市の高齢者の腸内細菌叢の分析研究だ。「まだ、どういう腸内細菌叢のパターンなら長生きできるのか特定できるところまで至っていませんが、京丹後市と京都市都市部の高齢者の腸内細菌叢との比較から、健康長寿においては、酪酸を産生する腸内細菌が重要な役割を果たしている可能性が高まってきました*1。酪酸菌は、バターやチーズに含まれ、熟したギンナンなどから発生するにおいの強い成分ですが、腸の中でこの菌を産生する菌が増えると、免疫細胞が増えて、炎症にブレーキをかけることが分かっています。また、高齢マウスを用いた実験で、腸内の酪酸菌を増やすと、脳神経の老化の進行が抑えられとの報告もあり、酪酸菌を腸内で増やすことが抗老化につながると考えられます」と語る(図表1)。