抗加齢物質として注目されるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)。マウスを用いた実験で、加齢に伴う糖尿病、筋力や認知機能の低下などを改善する効果や健康寿命の延伸が報告されているNMNは現在、世界の様々な研究機関において、ヒトへの効果を調べる臨床試験が進められている(関連記事:「見えてきた、NMNのヒトへの抗老化効果」)。その1つ、NMNを健康な高齢男性に投与した東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科の五十嵐正樹助教らの研究で、「握力や歩行速度の改善」が確認された。握力と歩行速度の低下は、超高齢社会の課題であるサルコペニア(筋肉減少症)の進行指標であり、NMNがその予防に寄与する可能性もある。NMN研究の成果と今後の展望を五十嵐助教に聞いた。
NMN摂取で老化制御のカギを握るNADが2倍以上増加
東大の糖尿病・代謝内科のNMN研究は、65歳以上(平均年齢71.5歳)の健康な男性42人を対象に行われた。被験者を無作為に2群に分け、NMNまたはプラセボ(偽薬)のカプセルを1日250㎎、12週間投与した。
「この研究で私たちがまず確認したかったのは、NMNを高齢男性へ投与したときの安全性と、NMN摂取によって、老化制御に深く関わる補酵素であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が、マウスによる実験と同じように増えるかどうかです。高齢男性にNMNを12週間摂取してもらった結果、特に有害事象はなく、安全性が確認されました。また、NMN摂取群では血液中のNADが、12週間でプラセボ群(対照群)の2倍以上に増加しました(図表1)*1」と五十嵐助教は説明する。
NMNは体内に入るとすぐにNADに変換され、老化を制御する酵素のサーチュインを活性化する。サーチュインは長寿遺伝子とも呼ばれ、この酵素を活性化させることが老化を遅らせることにつながるとされる。
「体内のNADは加齢と共に減少します。老化や糖尿病、心血管疾患、がん、アルツハイマー型認知症など加齢に伴う病気の発症には、NADの減少が密接に関わっています。NMN摂取などによって血液中のNADを増やすことが老化制御のカギを握ると考えられます」と五十嵐助教は話す。