老化細胞除去薬、オートファジー、NMNに期待

 より有効性の高い老化制御の確立でカギを握るのが老化研究の進展だ。「ここ5年くらいの間に、社会実装できそうな成果が多数出てきて、老化研究の“出口戦略”が見えて来た。いま老化研究が注目されるのは、科学的裏付けがある新しい老化制御法が実用化に近づきつつあるから。2030年くらいまでには、老化を制御してエイジングドミノを止めることが夢物語ではなくなっている可能性もある」

 そう話す樂木教授が、特に注目しているテーマは、「老化細胞除去薬(セノリティクス)」「オートファジー」「NMN」の3つだという。

 老化細胞除去薬は、分裂を停止したのに臓器の中に蓄積して老化を加速させる「老化細胞」を取り除く薬だ。樂木教授ら大阪大学の研究グループでも、加齢に伴って増加する老化T細胞を除去するワクチンを糖尿病モデルマウスに投与すると、老化による体の炎症が抑えられ糖尿病も改善することを確認している。米国では別の老化細胞除去薬において、ヒトへの効果を見る臨床試験が進んでいる段階で、国内外で様々な研究が進んでいる。

 2つ目のオートファジーは、たんぱく質をリサイクルし新陳代謝を促す「細胞の掃除機構」だ。アルツハイマーやパーキンソン病の原因となるたんぱく質、病原体などを排除する仕組みがあることも分かってきている。オートファジーの働きを阻害し老化を加速させる因子が特定されてきており、それを取り除くことによる老化制御法の開発や、オートファジーを活性化させる方法の開発にも注目が集まる。

 3つ目に挙げられたNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は、ビタミンB₃(ナイアシン)からつくられたサプリメント。老化を制御する酵素とされるサーチュインを活性化させ、加齢に伴って低下する糖代謝を改善し、健康寿命を延ばすことがマウスで確認されている。現在は、ヒトへの効果を確かめている段階で、樂木教授らの研究室でも、2020年に身体的フレイルの糖尿病患者にNMNを投与する臨床試験を行った。

 樂木教授は、老化研究の成果を見る注意点として、「実験が、酵母やマウス、サルなど動物試験の結果なのか、ヒトに対するデータなのか必ず確認、理解することが大切」と強調する。マウスなどの動物で良い結果が出ても人間には効果がないこともあるからだ。

 また、「60代の人が20代の頃のような肌を取り戻すなど、タイムマシンのような若返り法はあり得ない。研究成果を上手に活用するには、個人にもリテラシーを高めてもらうなどの課題もあるだろう。その上で老化研究や抗老化ビジネスは、加齢を悪ととらえるのではなく、年を取っても、たとえ認知機能が落ちても、今が一番幸せと思える幸福長寿を支える方向で進んでほしい」と話す。

樂木宏実(らくぎ ひろみ)氏
大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(老年・総合内科学)教授
樂木宏実(らくぎ ひろみ)氏 1984年大阪大学医学部卒業。米国ハーバード大学ブリガム・アンド・ウイミンズ病院内科、米国スタンフォード大学心臓血管内科研究員などを経て2007年より現職。老年医学、高血圧学を専門に研究し、「元気な高齢社会」への展開を目指す。日本老年医学会前理事長、日本高血圧学会理事長、日本心血管内分泌代謝学会理事。『「100年ライフ」のサイエンス』(日経BP)監修者。

(タイトル部のImage:出所はGetty Images)