新型コロナの重症化も老化細胞の蓄積が要因に

 老化細胞が蓄積することで過度なSASPが起こると、がん、心血管疾患、糖尿病、白内障、慢性閉そく性肺疾患、アルツハイマー型認知症、骨粗しょう症、変形性膝関節症など、加齢によって増える様々な病気につながることも分かっている。

 最近では、新型コロナウイルスで高齢者や糖尿病などの基礎疾患がある人が重症化しやすいのは、老化細胞が蓄積し過度なSASPが起こっていることが一因である可能性が指摘された。ドイツのグループは、2021年9月、新型コロナウイルスをハムスターに感染させた研究から、細胞老化の誘導が新型コロナウイルス感染症の病態にも関係しているのではないかと報告している。ハムスターが新型コロナウイルスに感染すると、感染初期にSASPを起こした老化細胞が出現するが、セノリティクス(老化細胞を特異的に除去するとされる薬)で処理すると老化細胞が減少し、SASPによると思われる炎症反応も減弱したという(※1)。

 ただし、老化細胞は単なる悪役ではなく、正の側面も持っていることも知っておきたい。「SASPには、免疫細胞を呼び込んで不要になった老化細胞を死滅させたり、周囲の細胞を活性化させて傷ついた組織の修復を促したりして体を守る働きもあります。老化細胞は若い人にも発生しており、若いときにはがんの抑制や傷の修復など体を守る働きのほうが強いと考えられます」と原教授は語る。

 人間が自分の体の細胞を正常に保つ仕組みは我々が考えている以上に複雑だ。若いときには体を守っていたはずのSASPは、中高年になると老化をさらに加速させる悪役の面が強くなっていくというわけだ。

 「人間の寿命が延びたのは、ここ120年くらいのこと。もっと長い年月をかけて延びたのであれば、ヒトは老化細胞やSASPによる副作用が出ないように進化したのかもしれません。急速な寿命の延びに人間の進化が追い付かず、平均寿命が50歳くらいだったときには目立たなかった老化細胞の負の側面が表面化したのではないかと考えています。同じ年齢の人でも、老化細胞のたまり方には個人差があります。この老化細胞をどうコントロールしていくか、それが老化制御の大きな研究テーマです」

図2●老化細胞の誘発とSASPの発生
図2●老化細胞の誘発とSASPの発生
細胞分裂の過程で細胞周期チェックポイントがDNAダメージを感知すると、細胞老化が進み、組織の中に老化細胞として残ることがある。これがSASPを誘発、慢性炎症を引き起こし発がんの原因になることがある(出所:「100年ライフのサイエンス」日経BP)
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