異彩を、放て。をミッションとする福祉実験ユニット・ヘラルボニーは、障害のあるアーティストの作品を世に送り出すなど、福祉を起点に新たな文化の醸成を目指す福祉実験ユニットだ。「普通」ではないことを「可能性」と捉え、福祉の「拡張」に取り組む同社の姿勢は、共感できる点が多い。(江田 憲治=Beyond Health)
*以降の内容は、2020年8月3日に掲載した記事の再録です。肩書・社名、事実関係などは原則、掲載時のままとしています。
鮮烈な色使いや筆使いの絵柄が配された、ネクタイやスカーフやバッグ。その絵柄が、福祉施設にいる知的障害のある人が描いたアート作品だと聞いたら、皆さんはどう感じるだろうか。岩手県花巻市と東京都に拠点を置くヘラルボニーは、こうしたアート作品をプロデュースしているスタートアップ企業だ。
ヘラルボニーは2018年7月に創業し、約2年が経過した。2020年11月には盛岡市内に本社兼ギャラリーを開設、さらには地元の百貨店「パルクアベニュー・カワトク」内に直営ショップをオープンさせる予定だ。今後は事業を拡大するためのパートナー企業を増やし、投資も受け入れ、本格的に成長軌道に乗せる意向という。
産業界でSDGs(持続的な開発目標)が盛んに取り上げられる中でも、ビジネスと福祉という相反しがちな領域を結びつけているヘラルボニーのアプローチは、極めてユニークだ。近年、注目を浴びる「ウェルビーイング」の概念にも通じるものがある。
「知的障害への見方を、ビジネスを通じて変容させる」と語るヘラルボニーの代表取締役社長である松田崇弥氏に、創業に至った思いと、事業への展望を聞いた。
そのマスクの絵柄、素敵ですね。
松田氏(以下、敬称略) 新型コロナウイルスの流行を踏まえて作った「アートマスク」です。マスクのラインナップは複数ありますが、こちらに配した元のアートは「ギザギザ」というものでして、知的障害があるアーティストの坂本大知さんの手による作品です。この7月に、大日本印刷労働組合などDNPグループ労連に加盟する労働組合様が2450枚をご購入しました。
知的障害がある人のアート作品には、繰り返し削る、繰り返し同じ模様を描く、といった、繰り返しのパターンがよく見られます。この特徴は、アパレルプロダクトには特にマッチします。
自閉症やダウン症の人々は、習慣化して物事を覚えるという特性があるそうなのです。実際、彼らはルーティンが生活の基盤として存在していて、靴を寸分たりともずらさないとか、この時間になったら必ずこれをする、といった強固なルールが存在するのですが、このルーティンの特性がアート作品にも現れていて、独特の表現です。これを見て、私は知的障害があるからこそ描ける世界があるのだと確信しました。