子どもの社会性、一人ひとりの違いを親がその場で共有できる
現在、「かおTV」は親がわが子の特性を理解する手助けのツールという位置づけで使われ始めている。2012年に大阪府乳幼児健診体制整備事業で任意の測定として導入されたのを皮切りに、就学前までの乳幼児健診のタイミングを中心に、青森、愛知、福井、大阪、鳥取、兵庫、千葉、佐賀などの一部の自治体や病院へも社会実装の場が広がっている。
どのように使われているのか、事例をもとに紹介しよう。
上の画像を見てほしい。人物と図形が並んでいる画像を見たときに、子どもの視点が人物よりも図形やモノに集まる傾向がある事例だ。この子の親に、オペレーターはこんなふうに説明をする。「人よりモノに関心が向かうことはとても魅力的ですね。研究者や芸術家もそんな人が多いんです。一方で、お友達のおもちゃを『ちょうだい』と言わずに取ってしまうかもしれません。お友達の存在がよく見えていないこともあります。集団生活に入ると、先生の話を聞くようなシーンで壁に貼ってある掲示物ばかり見てしまうかもしれないので、怒られて損をしないように、あらかじめ『先生のお顔を見てね』などと具体的な指示を出してもらうように先生にお願いしておくといいかもしれません」。
「発達が気になる」と、唐突に親に伝えるのではなく、まず、子どもの興味について知ってもらい、その子の特性として理解し、その上で、特性のためにその子が困らないように手助けするポイントを伝える、というひと続きの支援がここにある。
下の画像の事例では、子どもの視線が人物の口や目に向き、言葉を読み取ろうとしているのがわかる。このことから、まだ言葉が出ていない段階の子どもであっても、その社会性は成長している、と推測できる。
1歳半健診には、以前から発達障がいのスクリーニングが組み込まれている。しかし、問診や行動観察などから「発達が気になります」などと保健師が指摘する従来の方法では、親が自分の子育てを全否定されたように感じたり、障がいという言葉の持つネガティブなイメージから「認めたくない」という気持ちが強くなるケースが少なくない。こうなると、本来その子に必要な治療的教育である療育を受けられなくなってしまう。親が発達障がいを拒絶する背景には、「発達障がいとは何かという正しい情報が不足していること、また、人と同じでなくてはいけない、というわが国独特の精神風土も強く影響していると考えます」と片山教授。
だからこそ重要なのが、発想の転換だ。「動くものが好き、カラフルなものが好きなど、日常と照らし合わせて、親が腑に落ちる納得感が特性への理解の入り口になる。問題点を早期に抽出するというネガティブな視点ではなく、早いうちから特性を知り、その子らしさを伸ばし、社会で生きていくスキルを身につけ、周囲に対しても苦手なことを知らせていこう、というポジティブな視点を、かおTVを通じて伝えたいのです」と片山教授はいう。
なお、全ての画面で幾何学模様だけを注視するというような極端な結果を示す子どもはほとんどいない。「親であっても、子どもが何を見ているかは意外と知らないもの。特定のものを好み、こだわるという特徴は強弱こそあれ、誰しも持っています。発達障がいがあろうとなかろうと、『この子、こんなものが好きなんだ、こんなふうに見ているんだ』と発見するきっかけにしてもらえるとうれしいですね」(片山教授)。