生涯にわたって活用できる“取説”ツール「Ikeda_s 」

 発達障がいをとりまく困りごとの解決には、発達障がい傾向に早期から気づくことと、社会の受け皿を整備することが両輪とならねばならない。

 そこで、「かおTV」と合わせてもう一つのツールとして誕生したのが、大阪府池田市で始まった「いけだつながりシートIkeda_s 」だ。

2013年4月に取り組み開始。大阪府池田市では4ヵ月健診の際に全ての保護者に配布するほか、希望者(全年齢)に無料配布。本人の基本情報、医療機関受診、投薬歴やサポートネットワークなどのほか、本人の運動、コミュニケーションや社会性、身辺自立・家事スキルなど成長・発達により変化する情報を書き込む。本人に大きな変化があったときや1~3年ごとに見直し追加していくことで、それまでの様子を踏まえた継続的支援に役立てていける。記載した内容に対してフィードバックコメント(大阪大学が作成)が得られるスマホやPC、タブレットで利用できる電子サービス「e-Ikeda_s 」もある(画像提供:片山教授)
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2013年4月に取り組み開始。大阪府池田市では4ヵ月健診の際に全ての保護者に配布するほか、希望者(全年齢)に無料配布。本人の基本情報、医療機関受診、投薬歴やサポートネットワークなどのほか、本人の運動、コミュニケーションや社会性、身辺自立・家事スキルなど成長・発達により変化する情報を書き込む。本人に大きな変化があったときや1~3年ごとに見直し追加していくことで、それまでの様子を踏まえた継続的支援に役立てていける。記載した内容に対してフィードバックコメント(大阪大学が作成)が得られるスマホやPC、タブレットで利用できる電子サービス「e-Ikeda_s 」もある(画像提供:片山教授)
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2013年4月に取り組み開始。大阪府池田市では4ヵ月健診の際に全ての保護者に配布するほか、希望者(全年齢)に無料配布。本人の基本情報、医療機関受診、投薬歴やサポートネットワークなどのほか、本人の運動、コミュニケーションや社会性、身辺自立・家事スキルなど成長・発達により変化する情報を書き込む。本人に大きな変化があったときや1~3年ごとに見直し追加していくことで、それまでの様子を踏まえた継続的支援に役立てていける。記載した内容に対してフィードバックコメント(大阪大学が作成)が得られるスマホやPC、タブレットで利用できる電子サービス「e-Ikeda_s 」もある(画像提供:片山教授)

 そもそもわが子に発達障がい傾向があると言われても、保護者は、福祉、療育、保育、教育といった多数の行政窓口を自ら探し、めぐり、担当課それぞれで、いちから同じ説明をしなくてはならない。親はたらしまわしにされ、支援情報にたどり着いたとしても疲弊してしまい、場合によってはなかなか必要なサポートまでたどり着けないというのが、日本の多くの地域の現実だ。

 片山教授らは、大阪府池田市の「発達支援システム検討委員会」にアドバイザーとして参加し、全市民、全年齢層を視野に、「どのライフステージにおいても、つまづいたときに相談に行った窓口で説明し、聞き取るべき内容を網羅する」ファイル作りを練り上げた。

 「Ikeda_s 」は、本人の基本情報、医療機関受診、投薬歴やサポートネットワークを集約する「フェイスシート」と、生活や発達の詳細データを記入する「現在の様子」シートからなる。必要に応じてシートを足してゆき、継続的な支援に役立てる。養育者あるいは本人の同意がある場合に限って複写版を発達支援課が厳重に保管する。

 「現在の様子」シートに書き込む項目は、WHO(世界保健機関)が定義する「ICF(国際生活機能分類)」をもとに、心身機能や環境因子など17項目が網羅され、乳幼児期から思春期、青年期、就労して以降、と生涯にわたって養育者、または本人が記録を追加してしていくことができる。生育歴、相談機関、受診時に配慮してほしいことなどもファイル一冊に集約。就園、就学時や支援機関が変わる度に生じる情報提供の負担を、この一冊を専門家や担当者に見せることによって大幅に軽減できる。本人のニーズに沿った支援がより早く、より適切に可能となるのだ。

 「Ikeda_s は生涯使えるツールです。支援の必要な人にだけ配られるのではなく、何かが生じたとき、振り返りができるように蓄えておくもの、自分のことを知ってもらうための“取説”のようなものととらえてください」と、片山教授は言う。

 この1冊さえ見せれば、保護者はそのときの困りごとにとらわれず、生育歴を振り返りながら本人の得意なこと、伸ばしてほしいことを取りこぼしなく伝えることができる。教員が、学校での子どもの様子を記載して保護者との面談や学校での教育に活用することもできる。障がいの有無に関わらず、「こういうふうにしたら、うまくいった」「こういうふうにすると、やりやすい」というふうに、子育てでうまくいったり、本人が心地よくなる方法や物事を書いておくのがポイントだという。「そうすると、後で読み返したとき、支援者が本人に合った対応をするヒントになったり、本人も、どんなときに失敗しやすいかを知り、うまくいくための工夫をするといった行動に活かすことができます。親はこのシートに書き込むことで、本人の得意なこと、苦手なことを客観的に把握でき、親自身ががんばってきたことも実感しやすくなります」(片山教授)。

 Ikeda_s は生涯にわたる「成長・発達記録ツール」になる。片山教授は、子どもはもちろん、大人も、認知機能が低下しはじめる高齢者も、全ての人にIkeda_s を使ってほしいと言う。「誰しも得意不得意はあり、生きづらさやこだわりがあるということを実感してほしいのです。日本には、違った人を遠ざけるという精神風土が強く、特に障がい者に対しては、何かが出来ると『障がいがあるのにすごい』、出来ないと『障がいがあるからしょうがない』と判断する。それでは本人のアイデンティティは否定された状態のままです。“違っている”は“間違っている”ではないということを、かおTV、Ikeda_s といったツールを通して社会に伝えていきたいのです」(片山教授)。

片山泰一教授
片山泰一教授 大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科元研究科長、現在、教授・副研究科長。同大学院・5大学からなる「子どものこころの発達研究センター」で研究開発されたカリキュラムや教材、情報などの利用を許された「公益社団法人子どもの発達科学研究所」で普及、理事長を務める

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)