「圧倒的な没入感」で行動変容を起こす

 ジョリーグッドは主に医療・福祉分野でVRによる現場トレーニングソフトウエアの開発を手掛けている。同社が2018年に発表した発達障害者向けのソーシャルスキルトレーニングVRサービス「emou」は、すでに全国各地の就労移行支援施設で採用され、急速に導入が進んでいる。

 emouはVRゴーグルと指導者用タブレットを用いて、友達との会話や集団行動、就職面接、職業体験など80以上のVRコンテンツから成るプログラムにより、対人関係スキルを訓練する研修システムだ。

 「VR でトレーニングをすると“行動変容”が起こりやすい」と話すのはジョリーグッド 代表取締役CEOの上路健介氏。「VR で失敗しても怖くないし、何度でも練習できる。習熟度が高く、かつ定着しやすい。良質な体験学習が可能なのです」(上路社長)。

ジョリーグッド 代表取締役CEOの上路健介氏(出所:ジョリーグッド)
ジョリーグッド 代表取締役CEOの上路健介氏(出所:ジョリーグッド)
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 加えて、テレビなどのモニター画面で映像を眺める従来型のトレーニングに比べ、「臨場感」が高いのもVRの魅力だ。テレビ局の映像技術畑出身である上路氏が特にこだわっている部分でもある。「当社のVRコンテンツの大きな特徴は、“憑依”が容易にできること。ゴーグルをかけて下を見ると、体の一部が見えるような撮影方法をとっている。目線に違和感がないことで、より自分がそのコンテンツの当事者に、ストレスなく、自然に成り代わることができるのです。そのリアルさは髄一で、当社の強みです。実際に、各方面から高い評価をいただいています」(上路社長)。

 例えば、同社が2年前にリリースした医療者向けサービスに、熟達した外科医の手技をVR化するプログラムがある。手術の技術研修は通常、別室でモニターを通じて見学するのが一般的だが、このプログラムでは受講者がVRゴーグルをかければ、あたかも自分が熟練医の目線で見ているような感覚が得られる。それが限りなくリアルで、わかりやすいと、医療業界からの問い合わせが相次いでいるという。

臨場感の高さが、ジョリーグッドのVR画像の特徴だ(出所:ジョリーグッド)
臨場感の高さが、ジョリーグッドのVR画像の特徴だ(出所:ジョリーグッド)
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 実際、VRを用いた体験学習では、通常のマニュアルで学習するより学習効果が2倍以上という研究結果がある(J Surg Educ : 2020 Feb 5;S1931-7204(20)30002-7. )

 また、オックスフォード大学、英国NHS(国民保健サービス)、バルセロナ大学が、VR技術を使った精神科治療に関する285件の研究をメタ解析した共同研究では、不安感、統合失調症、依存症など、精神疾患のどの分野治療にもVRのポテンシャルがあること、特に不安障害に対して有効であることが報告されている(Cambridge Journals Psychological Medicine :47, 14, October, 2393-2400、2017)

 伊藤室長は認知行動療法とVRの親和性についてこう語る。「CBTは、座学で考え方のクセの気づきを得る概念学習、ロールプレイングを用いてそのクセを修正していく体験学習、そして実践の大きく3ステップで進めます。VRはこのうちの『体験学習』にマッチすると考えました」。

認知行動療法(CBT) 3つのステップ
    概念学習:テキストやセラピストのレクチャーなどで、気持ちが動揺したりつらくなったりするときの、自分の考え方のクセを理解する
     ↓
    体験学習:セラピストとの対話やロールプレイングを通して、自分の考え方のクセと現実との食い違いを見つめ直し、思考のバランスがとれるようにして、問題解決の練習をする
     ↓
    実践:実際の生活の場で、学んだことをやってみて、自分の考え方のクセの修正の仕方を体得する

 従来のやり方は、患者とセラピストとの対話で進められるが、患者が自分に起こった出来事を話してもそれがセラピストにうまく伝わらなかったり、セラピストもまたうまく体験を引き出せなかったりといった齟齬が起こりやすい。しかも、治療効果はセラピストの技量に依存するところが少なくなかった。しかし、シーンやストーリーをVRで体験させれば、「百聞は一見にしかず」で、患者、セラピストとも、時間をかけずに共通認識が持てる。この点を国立精神・神経医療研究センターは高く評価している。