薬もCBTも効きにくい“無快楽”症状をVRで改善

 国立精神・神経医療センターが、認知行動療法にVRの導入を検討するにあたり、まずターゲットとしたのが「うつ病」だ。先述の通り、不安症や神経症に対するVRは海外に既存のものがある。「研究者としては未開拓の領域へ踏み込むことにやりがいを感じますし、うつ病は、我が国はもとより、世界的にみても最も患者数が多い精神疾患。この試みがうまくいけば社会への貢献度も高い」(伊藤室長)。

 ただし「うつ病と一口にいっても、たくさんの症状、病態があるのでVRの有効性を検証するには対象項目を絞り込む必要があります」(伊藤室長)。そこで着目したのがうつ病の中心的な症状の1つである「アンヘドニア」だ。これは、ポジティブ感情が低下したり、意欲が減退したり、喜びが失われた状態などを指す。

 「アンヘドニアは脳の中の“報酬系”と呼ばれる「快を求める」→「手に入れたものを味わう」→「次につなげる」のサイクルが不活化している状態。うつ病の中心的な症状であるにも関わらず、従来のやり方では薬物療法もCBTも、治療効果が得られにくいという報告がある」と話すのは同センターの蟹江絢子医師。

アンヘドニアは快感消失、無快楽とも呼ばれ「何をやってもいいことなどない」「今がつらすぎて先のことなど考えられない」と、前へ進もうとする気力が起こらない状態を指す。右はアンヘドニアを改善へ導く「報酬系サイクル」。VRのリアル感は、心地よさやわくわく感が素早く得られ、このサイクルを活性化させやすいと研究チームは話す(左のイラストは野崎裕子、右の図は国立精神・神経医療研究センター作成「ポジティブ価システムに焦点をあてた認知行動療法(PoCot)」を参考にBeyond Healthが作成)
アンヘドニアは快感消失、無快楽とも呼ばれ「何をやってもいいことなどない」「今がつらすぎて先のことなど考えられない」と、前へ進もうとする気力が起こらない状態を指す。右はアンヘドニアを改善へ導く「報酬系サイクル」。VRのリアル感は、心地よさやわくわく感が素早く得られ、このサイクルを活性化させやすいと研究チームは話す(左のイラストは野崎裕子、右の図は国立精神・神経医療研究センター作成「ポジティブ価システムに焦点をあてた認知行動療法(PoCot)」を参考にBeyond Healthが作成)
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 「アンへドニアは心が止まってしまっている状態ともいえます。ジョリーグッドのVRを体験したとき、VRのリアル感は心をゆさぶり、癒しになったりポジティブ感情がわきあがる助けになる、と確信しました」(蟹江医師)。