がん患者を苦しめる「固定観念」の存在

 議論の中で多くの指摘があったのが、がんに対する「固定観念」について。その存在が、患者を苦しめることにもつながっているという。固定観念の払拭こそが、特に企業や社会などに今、最も求められる行動変容といえそうだ。

 目白大学の野澤氏は、国立がん研究センター中央病院に2013年に設立された「アピアランス支援センター」の立ち上げを推進。医療者の視点からの外見(アピアランス)の支援とは何かを研究し続けてきた。同氏は「がんになった人たちの敗北感をどう断ち切るか。私が関わっている外見の問題は、まさにその最たるもの」と訴える(関連記事:がん患者の外見を支援するゴールは「人と社会をつなぐこと」)。

 患者が外見を気にして、とにかくがんを隠そうと必死になるのは、がんに対する固定観念が根強いからだと野澤氏は指摘する。「がんにならないための予防策を政策的に啓発することはもちろん有効だが、あまりにがんが特別視されると、罹患してしまったときの敗北感、隠したい風潮を強めてしまうことにもなりかねない。そのバランスをうまく取っていくことも考えていくべきだ」(同氏)。

 アフラック生命保険の宇都出氏も、社会の中に無意識のうちに刷り込まれているがんに対するイメージや固定観念を変えていくことの重要性を説く。1974年に日本初の「がん保険」の販売を開始した同社は今、がん患者およびその家族を取り巻く多様な課題に対し、社会全体での解決を目指す「キャンサーエコシステム(Cancer Ecosystem)」の構築を進めている。がんを単なる「病気」ではなく、社会に浸透している固定観念に起因する苦しみを含めた「状況の問題」と捉え、それに向き合うための取り組みだ(関連記事:がん当事者を取り巻く真の課題、社会全体で解決する必要がある)。

 がんと就労の問題も今後、固定観念を変え、企業としての行動変容が求められる大きなテーマといえる。アフラック生命保険では、「がんの罹患後も普通に仕事ができる環境の整備と風土の醸成に努めている。このような意識や感覚を、社内はもちろん、社会全体に広げていきたい」(宇都出氏)とする。

 医療法人社団鉄祐会の武藤氏は、治療の最終局面(ターミナルケア)に携っている立場から、末期がん患者の主体性を妨げるスティグマ(偏見)を取り除くことの必要性を指摘する。「末期がん患者は死を意識しながら過ごしている。冷静に考えればかなり困難な状況を生きているわけで、周囲だけが元気づけることが正解ではない。医師、看護師、臨床心理士などが一体のチームとなって、患者の主体性を妨げるスティグマ(偏見)を取り除き、最適な人が担当できるようになれば、とても幸せながん治療ができるだろう」(同氏)。

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(タイトル部のImage:川崎 樹音、剣持 悠大)