1974年に日本初の「がん保険」の販売を開始したアフラック生命保険。今回の円卓会議の参加者の一人である同社 取締役上席常務執行役員の宇都出公也氏は、「がん」とは単なる「病気」ではなく、当事者(がん患者およびその家族)を取り巻く「状況の問題」として捉えることが必要だと説く。同社が現在、構築を進めている「キャンサーエコシステム(Cancer Ecosystem)」はまさに、当事者を取り巻く多様な課題に対し、社会全体での解決を目指すものだと位置付ける。(小谷 卓也=Beyond Health)


 2021年1月に、「『がん患者本位のエンゲージメント』を目指して~がん患者が社会で自分らしく生きるための3つのビジョン~」(日経BP)という書籍が出版されました。これは、がん研究会有明病院の名誉院長である武藤徹一郎先生が座長を務め、当社が事務局を務めた「『がん患者本位のエンゲージメント』を考える会」(以下、研究会)の内容をまとめた報告書です。

アフラック生命保険の宇都出氏(写真:川崎 樹音、剣持 悠大、以下同)
アフラック生命保険の宇都出氏(写真:川崎 樹音、剣持 悠大、以下同)
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 この研究会では、がん患者およびその家族(以下、当事者)が抱える課題や生き方などについて、約2年にわたって議論が重ねられてきました。そこで洗い出された課題に対する解決の方向性として提示されたのが、「社会全体でがん患者を生涯にわたって支える」「一人ひとりが安心して納得できる医療/ケアを受けられる」「がん患者が主役となって自分らしく生きるための素養とスキルを身に付ける」という3つのビジョンと、それを実現するための10のアクションです。

 本書の冒頭で、がん研究会有明病院 副院長の大野真司先生が、「告知をする医師自らが、患者の頭を真っ白にさせていたと教えられた」エピソードを紹介されています。「私たち医師は病気や治療のことをひたすらに説明します」が、「がんの説明をしている時に、患者さんは子どもの卒業式や入学式のことをずっと考えていたのがわかった」と。

 アフラックも、「がん」に関連する保険のご請求を年間約60万件近く頂戴します。その中には、保険とは直接関係のない、さまざまなお話しをされることも少なくありません。お客様は、患者さんである前に一人の人間であり、ご家族があり、お仕事があり、それぞれの社会生活があります。

 私たちも、いったん、お客様に対する保険会社という立場を離れ、当事者の立場になって考える、そして、当事者にとっての本当の課題は何かを探っていきたいと考えてきました。徹底した当事者目線でサバイバージャーニー(がん患者がたどる人生の道のり)をたどるとき、その直面する悩みや問題(ペインポイント)は実に多様です。医療的な問題はもとより、実存的・精神的な問題から経済面を含めた社会的な課題まで、「がん」とは単なる「病気」ではなく、当事者を取り巻く「状況の問題」として捉えることが必要であり、その解決には社会全体で対応する必要があります。

 これが、アフラックが目指している「キャンサーエコシステム(Cancer Ecosystem)」の根底にある考え方です(図)。当事者にとっては、保険会社であれ、行政であれ、医療機関であれ、ケアやサービスの提供者が誰であるかは関係ありません。多様な課題に対して、多様なプレーヤーが連携・協働して解決にあたる、これはBeyond Healthが提唱する「空間×ヘルスケア 2030」と同じものだと捉えています。知見を結集して、包括的に課題を解決するアプローチです。「がん」に関わる社会的課題を解決すること、これを目的としてキャンサーエコシステムを構築し、さまざまなステークホルダーと連携・協働しながら推進していきたいと思います。

図●「キャンサーエコシステム」の概念図(図:アフラック生命保険の資料を基にBeyond Healthが作成)
図●「キャンサーエコシステム」の概念図(図:アフラック生命保険の資料を基にBeyond Healthが作成)
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 同時に、「キャンサーエコシステム」は、当事者だけではなく社会全体の便益と費用に配慮しなければなりません。これは、社会的な広がりをもつ「エコシステム」の責務だと考えています。

がんに対する「固定観念」が当事者を苦しめている

 社会の中で無意識のうちに刷り込まれているがんに対するイメージや固定観念を変えていくこと、そして、そのことによって、人々の行動変容や意識改革を進めることも大事であると考えています。

 米国の作家であるスーザン・ソンタグ氏が『隠喩としての病い』で記したように、「がん」による痛みや苦しみは、ご本人や周囲、あるいは社会一般に浸透している固定観念、いわゆる「言説」に起因していることがあります。

 例えば、「がん」と就労の問題があります。「がんになったら仕事はやめなければ」と思い込んでいる方は、決して少なくありません(内閣府「がん対策・たばこ対策に関する世論調査」2019年7月より)。「がん」と一言でいっても、種類も進行度も治療もさまざまで、今まで通りのお仕事を続けられることも少なくないですし、ちょっとした工夫や配慮で問題なく継続できることもあります。

 アフラックでは、がんやその他の病気に罹患しても安心して働き続けられるよう、さまざまな就労支援の制度や仕組みを導入しています。また、がんを経験した社員による「All Ribbons(オールリボンズ)」というコミュニティがあり、積極的に活動しています。オールリボンズではメンバーの治療体験を共有したり、がんになった場合の相談窓口を設けたりしています。がんになっても、そのことが特別なことではなく、がんになる前と同様に自分らしく生きていける社会、それが、キャンサーエコシステムの目指す社会です。

「当事者の主体性の回復」こそががん検診の役割

 アフラックは、創業当初から、がん検診の推進やがん啓発を全国各地で展開してきました。

 今では、全国113の自治体と提携して啓発活動を行い、がん検診受診率の向上に努めています。11万人におよぶ私たちの募集人の皆さんは、がん保険の営業に際して、がんに関する啓発やがん検診の受診促進も併せて行っています。

 それも、「がんとは不治の病である」という固定観念を変えていきたい、という強い想いからでした。アフラックが日本で初めて「がん保険」を発売した1974年当時、「がん」という病名が本人に告知されることは、極めてまれなことでした。私自身、医師になった1980年代でも、まだ半分も「がん」という病名を告知していませんでした。当時は、本人に対してだけでなく、口にするのもはばかられていた時代であり、「がん」にかかったと知った時の当事者の無力感、それは現在では想像もつかない重いものであったと思います。

 そのような時代に、「がん」を早期発見・早期治療することで「がん」を克服する、「がん検診」のこの考え方は、「がんは不治の病である」という固定観念を変えたい、言い換えれば、「がん」に対する当事者としての主体性を回復したい、という社会全体の願いを体現したものでした。

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 アフラックのグループ会社が、がんに関する新しいテクノロジーに挑むスタートアップに積極的に投資しているのも、同じ想いからです。リキッドバイオプシーを含む、がんスクリーニングの企業などに投資していますが、真に社会全体のためになる解決策を応援したいと考えています。

 2020年1月には、ヘルスケアサービスを提供する新たなグループ会社、Hatch Healthcare(ハッチヘルスケア)が設立されました。同社では、ほとんどの子宮頸がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を自己採取で確認できるキット「&Scan HPVセルフチェック」を提供しています。高い感度と特異度を備えており、HPVの型もわかるのが特徴です(HPVは型によって、異形成ががんに発展するリスクが異なる)。また、検査後に適切な診療につなげるプロセスをセットとして提供しており、適切ながん検診を勧奨するツールとして、好評いただいています。

 アフラックは、「がんの患者さんとそのご家族の精神的負担や経済的負担を少しでも軽減したい」という創業の想いをコアバリュー(基本的価値観)の一つとし、社会的課題を解決することを通じて経済的価値も創出する「CSV経営(CSV=Creating Shared Value、共有価値の創造)」を実践してきました。私たちは、がんスクリーニング検査の結果がいたずらに恐怖や不安を煽るものであってはならないと考えています。また、社会全体の便益と費用全体に常に配慮し、過剰な検査や治療を誘発することも避けなければなりません。「&Scan HPVセルフチェック」は、より負担の少ない方法でより早期の病変を発見するツールであるだけでなく、検査結果の持つ意味を明確に示し、また、適切な治療への橋渡しとしての役割を果たすことで、真に社会に安心を提供するがんスクリーニングを目指しています。(談)

(タイトル部のImage:川崎 樹音、剣持 悠大)