もし無人島にいたら、日々の身だしなみを整えますか?

 適切な支援の構築に向けて、まずは患者の悩みを理解することから始めました。最初は手探りだったため、患者が訴える髪や爪などの症状部位へのカモフラージュ対策をひたすら考えていたのですが、臨床現場で不思議なことに気づきました。

 1つは、患者の苦痛は症状の重さに比例しないということ。もう1つは、患者の苦痛を年齢や性別だけで判断してはいけないということです。高齢の男性で外見を気にされる方も意外に多いですし、若い女性でもあまり気にされない方もいます。

 もし無人島にいたら、日々の身だしなみを整えますか? 研修などでこの質問をすると、100人中95人は挙手しません。多くの人は、自分だけなら見た目を気にしない。これはがん患者も同じで、脱毛しても肌の色が悪くても、「もし自分しかいなかったらこんなに苦痛を感じないだろう」と話されます。

 そこで、研究を進めると、外見の変化はそれ自体が、患者にとって、がんのシンボルであり、いつも病気や不安を感じさせることや、身体的な違和感をもたせることがわかりました。

 より切実なのは、従来の社会関係性が崩れてしまうことへの恐怖でした。外見からがんと判断されて「可愛そうな人」「先が長くない人」と思われてしまい、いままで通りの対等な人間関係が壊れてしまうのではないかという不安が大きかったのです。状況を整理すると、「身体症状」から始まり「心理的問題」「社会的問題」の3側面の課題が生じていると考えられます(図)

図●外見変化の問題を整理すると「身体症状」「心理的問題」「社会的問題」の3側面の課題がある(図:野澤氏の資料を基にBeyond Healthが作成)
図●外見変化の問題を整理すると「身体症状」「心理的問題」「社会的問題」の3側面の課題がある(図:野澤氏の資料を基にBeyond Healthが作成)
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 これらを踏まえ、私たちは「医療の現場で外見を支援するゴールは、人と社会をつなぐこと」と定めました。学校や会社など外の社会に限ったものではなく、家族を含む人間関係の中で、いままで通りその人らしく、生き生きと過ごすための支援です。特に医療には、外見の問題で、患者に適切な治療を受ける機会を失わせない、という使命があると捉えています。