●注目キーワードは「老化制御」

健康寿命の延伸が課題となる中、老化研究の進展とその成果である老化制御法の社会実装が期待を集めている。NADブースター、老化細胞除去薬、オートファジー…。本サイトでも、昨年より連載企画「ここまで進んだ『老化制御サイエンス』」をスタートさせたが、2022年はさらなる進化と広がりがありそうだ。

新たな老化制御を見るのに欠かせないのが、そこに科学的な裏付けはあるのかという視点。今回はその「ガイド」として、早野元詞慶応義塾大学医学部特任講師に、老化研究の概略と成果を読むポイントについて寄稿してもらった。

氏は、日本でもベストセラーになった書籍『LIFESPAN(老いなき世界)』(東洋経済新報社)の著者で世界的な老化研究者であるデビッド・A・シンクレア博士のラボに留学後、2021年4月より現職に着任した注目の老化研究者、社会実装家。スタートアップやベンチャーキャピタル、一般社団法人、NPOなどにも積極的に参加し、「反分野的研究とネットワークの中で、老化という概念を科学とイノベーションで変化させることを目標として」活動している。


 老化は、生命に「時間」という概念を吹き込み、時間の価値は科学とイノベーションによって変化し得るものだと考えている。私は、熊本大学3年生時の課題でウェルナー症候群という指定難病(厚生労働省)に興味を持ち、老化研究へ足を踏み入れた。

老化の可逆可能性

 ウェルナー症候群は、RecQ型ヘリカーゼに遺伝子変異が生じることでDNAへの傷が蓄積し、30歳前後から急速な皮膚の萎縮、白内障、代謝異常、筋萎縮などが生じる疾患である。その症状から「早老症」と呼ばれているが、1つの遺伝子が老化を制御し得るかもしれないという衝撃は、同時に老化の可逆性についても提示していた。

早野元詞(はやの・もとし)氏<br>慶応義塾大学医学部精神・神経科学教室、理工学部システムデザイン工学科特任講師
早野元詞(はやの・もとし)氏
慶応義塾大学医学部精神・神経科学教室、理工学部システムデザイン工学科特任講師
老化、エピジェネティクスが専門。2005年、熊本大学理学部卒業。2011年、学位取得(博士・生命科学)、東京大学大学院新領域創成科学研究科。米ハーバード医科大学院フェロー及びヒューマンフロンティアサイエンスプログラムフェローを経て、2017年より慶応義塾大学医学部・眼科学教室特任講師に着任。2021年4月より現職

 遺伝学、細胞生物学、生化学について、現在の東京都医学総合研究所、所長の正井久雄先生の元で指導を受けて、2011年に分裂酵母を使ったDNA複製タイミング制御の研究で学位(生命科学)を取得している。その後、ボストンのDavid A. Sinclair博士の研究室へ留学し、2017年より坪田一男名誉教授の慶應義塾大学医学部眼科学教室へ参画し、現在老化研究チームを率いている。

 スタートアップ企業やベンチャーキャピタル、一般社団法人、NPOなどにも積極的に参加し、反分野的研究とネットワークの中で、老化という概念を科学とイノベーションで変化させることを目標として活動している。