●注目キーワードは「フェムケア」

フェムケアとは、この記事では「思春期から更年期までの女性ホルモンの影響を受ける年代の女性の健康支援」と定義したいと思う。いわゆる「女性特有の健康課題」に対するケアだ。

フェムケアを注目キーワードとして挙げたのは、この重要性をいち早く理解し、個人は自分の健康管理を、企業は女性従業員の健康支援を適切に行うかどうかで、この先の日本の少子化対策や女性活躍推進の成果が大きく変わると考えるからだ。フェムケアが適切に施されれば、産みたい人が子供を持てる率が上がり、女性のウエルビーイングが向上し、企業の生産性はアップする。フェムケアは日本のヘルスケア施策のカギを握っている。

具体的に支援すべき分野は、月経痛やPMS(月経前症候群)などの月経随伴症状、不妊、妊娠、更年期障害などだが、日本では長い間、こうした話題はタブー視され、教育を受ける機会も少なく、まるでないもののように扱われてきた。そのため、不調があっても対処の方法を知らず、仕事を休んだり、退職したり、出産をあきらめる人が少なくなかった。

しかし、少子化対策と女性活躍を一緒に回していかなければならない今、「知らない」ままでは家庭も企業も、社会も身動きが取れないことが明らかになっている。ようやく専門家の警鐘に耳を傾ける動きも出始め、ビヨンドヘルスでも「日本の「妊婦の厳しい体重管理」の基準が変わったワケや、「若い女性の「やせ対策」が急務なワケ」 「ムダな月経は体に悪い!上手なコントロールが欠かせず」 などで、フェムケアがいかに足りていないかを報じてきた。これらの記事からは、何よりもまず、正しい事実を知ること、本人や周囲の健康知識を引き上げることが第一歩だとお分かりいただけるはずだ。

本稿で紹介する日本政策医療機構が実施した1万人対象の「不妊治療」の意識調査の結果も、日本人の「女性の健康」に関する知識の低さを改めて浮き彫りにしている。女性の能力を最大限に発揮できる働き方ができ、希望者が子供を持てる社会を実現するためにも、企業や社会がフェムケアを意識した教育や支援に一刻も早く取り組むべきだ。


 少子化政策の一環として、厚生労働省は、これまで自費診療だった人工授精や体外受精などの不妊治療を今年4月から保険適用にする方針を打ち出した。ただ、これに先立ち、日本医療政策機構が実施した世論調査では、男女合わせて約8割が「不妊治療を受けた女性が妊娠することができる年齢を40歳以上」と回答をするなど、妊娠や不妊に関する正しい理解が不足している状況が浮き彫りになった。

 このままでは、せっかく不妊治療が保険適用化されても、子どもが欲しい人が出産までたどり着けない可能性がある。望んでいる人が子どもを持てるようにし、できるだけ不妊にならないようにするにはどうしたらよいのか。同調査を実施した日本医療政策機構マネージャーで助産師の今村優子氏と日本産科婦人科学会理事長で大阪大学医学部産婦人科教授の木村正氏に聞いた。

約8割が「不妊治療を受けたら40歳を超えても困難なく妊娠できる」と回答

 日本医療政策機構は、2021年8月、全国25~49歳の男女1万人を対象に「現代日本における子どもをもつことに関する世論調査」をインターネットで実施し、このほど、その結果を公表した。

今村優子氏(写真:日経BP)
今村優子氏(写真:日経BP)
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 「最も驚いたのは、『不妊治療を受けた女性が妊娠することができる年齢を40歳以上』と考えている人が、女性の77.6%、男性の80.3%、全体では79.0%と、予想以上に多かったことです。なかには、50歳以上、60歳以上でも妊娠可能だと考えている人もいました」と今村氏は話す。

 確かに、40代前半で妊娠・出産する女性もいる。だが、女性の場合はたとえ、体外受精など最も高度な不妊治療を受けたとしても、35歳を超えると卵巣機能が低下するために出産までたどりつける確率が下がり、流産率が上がる。

 そのため、日本産科婦人科学会理事長の木村正氏は、「不妊治療の保険適用化自体は、子どもを持つことを社会が支援するようになったという意味で嬉しいことです」と評価しつつ、こう説明する。「しかし、どんなに医学が進んでも、女性の場合には年齢が上がるにつれ、たとえ不妊治療を受けたとしても子どもを持てる可能性が低下し、40歳を超えると流産率も急激に上がることを、男女問わず誰もがもっと広く知ってほしいです」

図1●不妊治療を受けた女性が比較的容易に妊娠することができる年齢は何歳頃までか?
図1●不妊治療を受けた女性が比較的容易に妊娠することができる年齢は何歳頃までか?
(出典:日本政策医療機構 「現代日本における子どもをもつことに関する世論調査」2021年)
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 不妊の原因は女性側と男性側のおよそ半々と言われるが、女性の場合は年齢も大きく不妊に影響する。日本産科婦人科学会の最新(2019年)の統計によると、例えば、体外受精などの生殖補助医療を受けた40歳の女性の妊娠率は15.6%だが、32.9%は流産し、実際に出産まで至ったのは9.8%だった。出産率は33歳くらいから徐々に低下し、43歳以降は限りなく0に近づく。逆に、胎児の染色体数の異常などによって生じる流産率は35歳くらいから徐々に高まり、43歳以上では約5~6割以上流産してしまう。

 しかし、1万人世論調査の結果から読み取れるのは、多くの人が不妊治療を過大評価し過ぎ、極端な言い方をすれば、「不妊治療を受けさえすれば、年齢に関係なく妊娠できる」と考えている可能性があるということだ。医学の進歩をもってしても加齢による不妊の壁は崩せないが、そのことを多くの人が正しく理解していない現実がある。

図2●体外受精など生殖補助医療(ART)の妊娠率・生産率・流産率(2019)
図2●体外受精など生殖補助医療(ART)の妊娠率・生産率・流産率(2019)
(出典:日本産科婦人科学会 ARTデータブック(2019)より)
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