厚生労働省が2018年2月に立ち上げた医療系ベンチャーの支援事業「MEDISO」(メディソ)。実務経験豊富な各分野の専門家がニーズに合わせて無料でアドバイスを行うほか、医療系ベンチャーに人材をマッチングさせる支援も提供している。

実際のサポート事例を取り上げる本シリーズの第1回目は、慶應義塾大学発のスタートアップ「セルージョン」にスポットを当てる。iPS細胞を用いた再生医療で、角膜移植の世界を大きく変える可能性を持つ技術を編み出した会社だ。現在、国内外での治験の準備を進めている。

 セルージョンは、慶應義塾大学医学部卒で眼科医として角膜移植に携わってきた羽藤晋社長が2015年1月に立ち上げた。世界に約700万人の患者がいるとされる水疱性角膜症の治療法を開発している。

 水疱性角膜症は、角膜に過剰な水分が流入して浮腫を生じ、混濁する病気だ。遺伝性のFuchs角膜内皮変性症や白内障手術、緑内障治療などの影響で角膜の内皮細胞がダメージを受けることに起因するとされる。全体的に視界がかすんで見えにくくなり、徐々に悪化して良くなることはない。

 現在、根本的に治すにはドナーの眼球を用いた角膜移植しかなく、角膜全部を移植する「全層角膜移植」や内皮を含む一部の角膜だけを移植する「角膜内皮移植」などが行われている。

 だが、角膜移植は様々な課題や制約があると羽藤社長は指摘する。

「まずはドナーが全世界的に不足しています。角膜移植の待機患者は全世界で1300万人と報告されているものの、年間実施される角膜移植は約18万件にすぎません。ドナーからの角膜を患者さんに安全に届けるためには、アイバンクの整備も欠かせませんが、今から整備するには時間とコストがかかります。

 また角膜移植は眼科の中で非常にテクニカルな難しい手術のため、熟練した医師と高度な手術設備が必要で、実施できるところが限られてしまいます。さらに、移植時に生じる傷口の感染や乱視、眼圧の上昇、移植片の接着不良などのリスクもあります」

 白内障手術が世界中で行われるようになる中、水疱性角膜症は増加傾向にあり、角膜移植の待機患者も増えるばかり。そんな状況を打破しようと羽藤社長がたどりついたのが、iPS細胞を用いた独自の治療法だった。

セルージョンの羽藤晋社長(写真:花井 智子、以下同)
セルージョンの羽藤晋社長(写真:花井 智子、以下同)
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