今回取り上げるのは、脳梗塞やくも膜下出血に対する脳血管内治療の手術支援 AI を開発するiMed Technologies(東京都文京区)。「世界に安全な手術を届ける」ことをミッションに掲げ、脳神経外科医の河野健一氏が2019年4月に設立した。

 脳梗塞やくも膜下出血の治療手段として近年「脳血管内治療」が広がりを見せている。これは、カテーテルと呼ばれる細いチューブを足の付け根などの太い動脈から脳内にまで挿入して血管の中から病変を治療する手術法だ。開頭を必要とせず患者負担が少ないことから、手術件数は年率10%以上で増加している。

 iMed Technologiesは目下、そんな脳血管内治療の安全性を向上させる手術支援AIの開発を進める。きっかけは、代表取締役CEOを務める河野氏の原体験にあった。

 河野氏は脳神経外科医として16年間、医療現場で多くの手術を手がけ、脳血管内治療にも精力的に取り組んできた。かつて手術の最中にヒヤリとしたことがある。閉塞した血管を再開通させるために用いるステント(金属のメッシュでできた円筒状の管)が思わぬところで開いてしまっていたのだ。

 「原因は一つの画面にばかり注意が向いてしまっていたため」と河野氏は振り返る。脳脳血管内治療では、複数のX線透視画像をリアルタイムで確認しながら、繊細な手元の操作で脳の血管にカテーテルを進めていく必要がある。最大4つの画面を同時に見ることになるが、一つの画面でも見なければならないポイントがいくつかあって、それに気をとられるあまり、ステントの広がりを見落としてしまっていたというわけだ。「大事には至らなかったが、人の目に頼るだけでは命に関わるような重篤なことも起き得ることに気づかされた」と河野氏は言う。

 脳血管内治療は多くの場合、術者以外にも3人程度の医師を動員して行う。透視画像は絶えず複数の目で確認し、何かあれば「危ない」と声をかける運用となっている。だが、現実には患者の状態のモニタリングなどで、画面にばかり集中できない状況もある。河野氏の周りの同僚もヒヤリとした経験を多かれ少なかれ持っていた。そこで、こうした現場が抱える課題の解決に向け、河野氏は会社を興し、ディープラーニングを用いた手術支援AIの開発に乗り出すことを決めた。

iMed Technologies 代表取締役CEOの河野 健一氏
[画像のクリックで別ページへ]
iMed Technologies 代表取締役CEOの河野 健一氏