2022年7月13日に東京国際フォーラムで開催された『ヒューマンキャピタル/ラーニングイノベーション2022』で、主催セミナー「企業における女性の健康支援の重要性~人的資本経営の動きを踏まえて」が行われた。前編丸井グループはウェルビーイング経営と「手挙げ制」で企業価値向上に続き後編では、Cradle 代表取締役社長 マリ 尾崎(スプツニ子!)氏、経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 統括補佐 藤岡 雅美氏、慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学 専任講師 飯田 美穂氏によるパネルディスカッションの模様をお届けする(モデレーターは日経BP 総合研究所 主席研究員 藤井省吾)。

藤井 省吾(以下、藤井) 日経BP 総合研究所で昨年、働く女性約2000人を調査したところ、年間およそ60日間、女性は月経やPMSによる不快な症状に悩まされており、普段のパフォーマンスを10とすると、その期間中は6に低下してしまうという結果が出ました。一方で、生理休暇の取得率はわずか8%ということも明らかになりました。働く女性は、月経関連の問題にどのように向き合っていったらよいのでしょうか。

慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学 専任講師 飯田 美穂氏(以下、飯田氏) 私は企業の産業医としても女性活躍のサポートを行っています。男性の場合、性ホルモンの分泌が20代でピークを迎えた後、加齢と共に緩やかに低下しますが、女性は10歳前後で初潮を迎えたら約40年間、毎月、定期的な揺らぎがあるのです。そのため、月経中や月経前に繰り返し不調を感じ、また更年期前後は非常に大きな揺らぎとなるため、不調を感じる女性も増えます。ですから、企業は女性に対しては、年代別、状態別に対策する必要があるのです。

 しかし月経期間中にさまざまなつらい症状があっても、病院にかかっている女性はわずか6%といわれます。残りの94%の女性は、自己流で対処しているのです。同様にPMS(月経前症候群)の治療をしている女性も5%というデータが出ています。また更年期障害では、急に汗をかくホットフラッシュという症状を6、7割の女性が感じると回答し、更年期症状によってパフォーマンスが落ちる方は2人に1人です。今後、女性のリーダーを育成するにあたり、重要な課題だと感じます。

慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学 専任講師 飯田 美穂氏(写真:辺見 真也、以下同)
慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学 専任講師 飯田 美穂氏(写真:辺見 真也、以下同)
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 治療にはお金がかかる、休みがとりづらい、産婦人科に行くにはハードルがある、そもそも治療できること自体を知らないなど、婦人科を受診しない理由はさまざまですが、早めに病院に行き、治療や生活改善の知識を得ることで、より元気に活躍して頂けたらと思います。

Cradle 代表取締役社長 マリ 尾崎(スプツニ子!)氏(以下、スプツニ子!氏) 私は2010年に「生理マシーン」という、男性が月経を体験できるアート作品を発表しました。月経は女性の生活や仕事に大きく影響しているのに、タブー視されていることに疑問を感じていたのです。

 そして今年、月経関連のさまざまな悩みは医療で解消できるという情報を世の中に広げ、女性や社会のあり方を変えていこうと、「Cradle(クレードル)」という新しいサービスを立ち上げました。企業の中で、月経や妊娠、出産、更年期、不妊治療など、女性の健康全般を支援するサービスです。すでに資生堂、JINS、双日、デロイト、NEC、POLA、ヤフーなどで導入いただきました。

 クレードルでは約60の婦人科や不妊治療クリニック、乳腺科などの医療機関と提携し、婦人科検診や卵子凍結、高度な不妊治療、AMH検査などを受診する際のサポートを行なっています。また月に2回、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)やヘルスケアについてのオンラインセミナーを開催し、アーカイブ動画も提供しています。

Cradle 代表取締役社長 マリ 尾崎(スプツニ子!)氏
Cradle 代表取締役社長 マリ 尾崎(スプツニ子!)氏
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 経口避妊薬の低用量ピルが日本で発売されたのは1999年ですが、実はこれは国連加盟国で最後です。アメリカやヨーロッパでは60年代に承認され、約30年後の1994年には北朝鮮でも承認されたのに、日本はさらに5年遅れました。その後、2008年に低用量ピルは月経困難症の治療薬として日本で保険適用されるようになりました。

 これまでは女性特有の健康トラブルについては語られることが少なかったため、特に男性が理解できていないことを感じます。「女性従業員が仕事で困った健康原因」を聞いてみると、女性自身は月経やPMSをあげますが、男性は「メンタルヘルス」と答えます。月経や更年期の不調を、メンタルの問題だと誤解しているんですね。

 日本政府は、女性管理職を30%以上に増やそうという目標を掲げていますが、ちょうど管理職になるタイミングで、更年期に悩む女性は多いです。更年期症状にはHRT(ホルモン補充療法)という保険適用の治療法がありますが、残念ながらあまり知られていません。閉経後の日本女性では1.7%しかHRT治療をしていませんが、オーストラリアでは56%、カナダでは42%です。「更年期は仕方ない」とあきらめている人も多いですが、日本には充実した健康保険制度があり、医療的なケアを受ければ仕事もプライベートもQOLが上がるので、知識をつけてケアしたいですよね。

 ただ、企業からは「女性だけ支援するのは、不公平なのでは?」と言われることもあります。今までの健康経営は、メタボ対策や禁煙支援が一般的ですが、データを見るとほとんど男性しかメタボになりません。決定権がある層に男性が多いと、自分たちの健康課題イコール社会全体の課題だと、どうしても思ってしまうのです。女性の9割が月経や妊娠、出産、更年期などの悩みを抱えながら仕事をしていますが、「女性だけだからニッチな問題」だと追いやられてしまいがちで、これはジェンダーギャップの一つだといえます。メタボ対策を健康経営でやるのなら、女性の健康支援もやらないと、D&I的にもフェアではないと思うのです。