「行動変容」がキーワード

大滝 ここでのキーワードは「行動変容」です。なぜなら、人は「健康」を目的に行動するわけではないからです。健康になるためにコミュニティーに参加しろと言われて、それで参加したとしても大概は長続きしないでしょう。

日経BP総研 医療・健康事業開発部長/Beyond Health 発行人 大滝 隆行(おおたき たかゆき)
『日経メディカル』編集部で臨床医学の診断・治療技術に関する取材執筆活動に従事。『日経ヘルスケア』『日経ドラッグインフォメーション』の記者、副編集長、『日経メディカル』編集部長を経て、2018年12月より現職

 今までの生活習慣病の指導では、医者が「たばこをやめましょう」とか、「お酒や間食を控えめにしましょう」とか言うのがせいぜいでした。でも、そんなことを言われても誰も守りませんよね。

 では、どうするのか。一つの象徴が、「ポケモンGO」です。ゲームを楽しむことが歩行につながって、結果的に健康になる。こんな風に何らかの仕掛けによって行動変容を起こすということが重要で、その手段として注目されているのが治療アプリです。

 実際に米国では、糖尿病患者にそのアプリを使うことによって、ヘモグロビンa1cという血糖の数値が薬と同等に下がったというエビデンスが出ているんです。治療アプリが薬と同等なんですよ。これはすごいことで、今後、いろいろな領域において、アプリが行動変容のためのツールとして進化していくのではないかと思います。

日本が世界で戦える分野に

安達 こうして従来の「医療」の外側で、様々な業種が参入しながら広がっていくであろう健康・医療産業ですが、グローバル展開を考えた場合、日本に勝機はあるでしょうか。これまでの「医療」の世界で言えば、例えば製薬は世界の中で苦戦しているわけですよね。

大滝 ポテンシャルは十分あると思います。日本の医療機器は、「診断」の機器については世界的に見ても優れています。CTなどの放射線診断やMRIの診断機器においては、世界シェアも高く、先端技術の粋が集まっています。

 そして、センサー技術においても日本は非常に秀でています。この二つの技術、つまり日本の優位な技術を駆使すれば、未病を発見できる機器と治療を一体化して、健康寿命を延ばすようなビジネスモデルを構築できる。そうなれば海外に輸出できる可能性も大いにあると思います。

高橋 さらに、日本には「団塊の世代」という高齢者のボリュームゾーンがあるわけです。あれだけの数の高齢者が毎年1歳ずつ年を取っていく。それを検証できるということは、日本そのものが、ものすごく巨大な実証実験場になれるということを意味します。

 いわゆる「課題先進国」と言われている日本の状況がそのまま優位性となる。課題をチャンスに変えることができるわけです。

 こうして日本という実証フィールドで実績を積んだ高性能のヘルスケアソリューションは、日本市場だけでなく、いずれは中国のマーケットであるとか、インドのマーケットであるとか、これから高齢化するであろうマーケットに対して輸出できるようになるはずです。

小谷 ただし、これからは競争も激しくなります。米国では2017年、FDA(米国食品医薬品局)が健康・医療分野のソフトウエアの承認プロセスを簡易化するプログラムである「Pre-Cert Pilot Program」を立ち上げました。

 これは、医療用ソフトウエアに関して個別製品ごとに審査するのではなく、企業を認定しようというプログラムです。認定した企業が手掛けるソフトウエアであれば、承認プロセスを簡易化しますよ、というわけです。去年、Appleウォッチ4に心電図機能が付いたと話題になりましたが、このソフトウエアは、申請からきわめて速いスピードで承認されました。

 今後は日本でも、承認プロセスのスピードアップのために何らかの施策が求められてくるでしょう。