「医師起業家」と「プロ経営者」の二人三脚で

福島 私は丸5年ほど、この領域に携わっています。その中で1つ感じているのは「ベンチャー企業における人材の層が厚くなってきた」という点です。例えば、コンサルティングファームや投資銀行の出身で、マクロな視点で全体を俯瞰できる人が増えており、その能力と起業家のエネルギーが上手く融合して、業界全体を押し上げているような印象を受けます。

グロービス·キャピタル·パートナーズの福島氏

 他方、ヘルスケア領域においてビジネス出身者のみで事業をリードするケースは、ともすればコンサルチックな机上の空論に陥りがちですが、例として医師兼起業家といった人が増えていることもあり、地に足の付いたサイエンスベースのアプローチができているのも大きなポイントです。

 デジタルヘルス(ヘルスケア×IT)のサービスは、それを受け入れる現場側の対応も求められます。ただ、最近ではエムスリーやキャピタルメディカのようなITの知見を持った企業が、自ら現場を持つケースも増えています。今まで以上に、デジタルヘルスが現場に浸透しやすくなっていくのではないかと感じています。

 ベンチャーキャピタルの視点では、いま挙げたような傾向を「資本市場が期待とともにしっかり評価し始めている」と感じています。加えて、この領域に対する海外の投資家からの注目度もかなり高まっている実感があります。このまま順調に成長してくれればと思っています。

藤原 ヘルスケアベンチャーの経営者のタイプは刻々と変化しています。例えば、数年前からは医師出身の経営者が増えてきました。最近では、医師の経営者をサポートする「プロ経営者」のような人材が出てきています。表舞台に立つか立たないかは別として、そういった人材と経営者が二人三脚で経営チームをハンドリングしているケースが徐々に増え始めているのが特徴的です。

福島 チームで課題解決にアプローチするというやり方は、1つの手法として確立されつつあると私も感じています。

 実際、医療現場などからベンチャーの経営サイドに対して、「現場のことをあまり理解していないのに…」といった不満が出るケースはよく耳にします。それが正しいか正しくないかはさておき、その状況に際して、医療現場の気持ちや言葉をくみ取れる人材と、ビジネスに精通している人材を引き入れておくことは大切でしょう。

調達した資金は人材への投資に使ってほしい

木村 同感ですね。これは、ヘルスケア以外のベンチャーでも同様だと思います。例えば、2000年代のITバブル期に上場したIT企業には、共同経営者が存在するケースが多くありました。例えば、ディー・エヌ・エー(DeNA)であれば南場智子氏、サイバーエージェントであれば藤田晋氏が創業者として有名ですが、どちらも共同創業者がいます。

 メルカリの山田進太郎氏に至っては、各メディアでのインタビューでも有名な話ですが「周囲に自分より優秀な人を」といった趣旨のコメントをしていて、それを創業期から今に至るまで、経営チームからメンバーまで一貫して実践しています。また、ラクスルもカーライル・ジャパン・エルエルシー出身の永見世央氏がNo.2となる取締役CFOに就任しており、退職率30%という崩れかかった組織体制の再編・活性化を進めた例もあります。

 このように、たとえベンチャーであっても、会社を成長軌道に乗せるための「会社づくり」、そしてその根幹を成す経営チームの組成は重要です。ベンチャーキャピタルの立場としても、調達した資金を「人材への投資にしっかり使ってほしい」というのが本音です。その重要性に気づき、共同創業者を招き入れるヘルスケア関連のベンチャーが増えていると私は思います。経営者や経営チームに対してそういった提案ができるような環境もできつつあります。このような変化は、ヘルスケアベンチャーのみならず、日本のベンチャー業界全体で起きているトレンドの1つではないでしょうか。

 一方で、医師出身のベンチャー創業者などからは「優れたビジネスパーソンと知り合うような接点がない」という声を良く聞きます。「優れたアイデアがありながら起業できない」といった医師も少なくないでしょう。こうした問題を解決できるような人材交流は、今後のヘルスケアイノベーションの加速に向けて必要なことだと感じています。