審査員の立場から見た「カケハシ」優勝のワケ

ヘルスケアベンチャーを後押しする取り組みの1つとして、先ほど話がでた経済産業省の「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト」があります。2019年1月に開催された最新のコンテストでは、カケハシがビジネスコンテスト部門のグランプリを獲得しました(関連記事)。3人は同コンテストの審査員を担当されましたが、審査員の立場で関わる中で感じたことはありますか。

藤原 まず誤解を恐れずに言うと、ヘルスケアベンチャーは他の業界よりも慎重に取り組まざるを得ない背景があるからでしょうか、「良いことをやっているが、見せ方があまり上手ではない」という印象を私は持っていました。しかし今回、グランプリを獲得したカケハシで代表取締役CEOを務める中尾豊氏のプレゼンは非常に秀逸で、時流をとらえた「SaaS(Software as a Service)モデル」をキーワードに「この会社なら、きっと成長していく」と感じさせてくれるものでした。

経済産業省が2019年1月に開催した「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2019」の表彰式の様子(写真:Beyond Health)

 また、事業プロダクトのマーケティングにも力を入れているからでしょうか、マネタイズについても好印象を受けました。そういった点も含めて、グランプリにはふさわしかったと思います。

 IPOに関していえば、「会社をどう見せるか」はとても重要です。ただ、その見せ方はヘルスケアベンチャーに限らず、すべてのベンチャーにとっての課題でもあるでしょう。例えば、音楽業界でビジネスをする場合に、深く考えずに「芸能プロダクション」と銘打ってしまうと市場評価にはつながりませんし、PRにもなりません。しかし、仮に楽曲を提供するのであれば、そこに「著作権ビジネス」や「コンテンツプロバイダー」といった観点を加えて「コンテンツビジネス」とするだけも、音楽配信の媒体の変化にも対応できるパワーやリソースをイメージできるようになります。

 カケハシの中尾氏は、それをとても意識したプレゼンだったと思います。ちなみに、中尾氏本人からは「プレゼンの場面や状況に応じて、発表内容を微妙に変えている」という話を聞きました。そこまで徹底していることにつくづく感心しました。

日本のベンチャートップ5に入るピッチ力

木村 私は前々回から連続で審査員を務めていますが、「回を追うごとに進化している」と強く感じます。例えば、先ほど話があったサポーター企業の増加は、業界に対する期待の表れでしょう。エントリーするベンチャーの質と量も高まっています。ファイナリストを選ぶに当たっては、事前に約20社のプレゼンを丸一日かけて聞きましたが、どこがファイナリストに選ばれてもおかしくないほどハイレベルでした。「すそ野が広がっている」ことをあらためて実感しましたし、本当に喜ばしいことだと思います。

(写真:川島 彩水、以下同)

 今回、カケハシがグランプリを獲得した最大の理由は、私も中尾氏の「プレゼン力」にあると思います。彼のプレゼンはとても独特で、日本のベンチャー業界の中でもトップ5に入るほどピッチが上手。特に、中尾氏が何度も使った「みなさん、○○したいじゃないですか」という当て決めの投げかけは、とても印象的なフレーズでした。「みなさん、ここで重症化予防をしたいじゃないですか」といった感じでまさに決めつけで話をしているわけですが、そこには「この課題はみんなで解くべき課題です」「薬局を利用しないのはもったいない」といったビジョンがしっかり示されているからこそ、共感が得られるのだと思いました。

 リーダーとして、自分のビジョンを示す方法はいろいろあります。中尾氏のやり方もその1つですが、あそこまで堂々と語ってくるヘルスケアの起業家はこれまでいなかったのではないでしょうか。ヘルスケアは専門性が求められる部分もあり、ともすれば「他の人には分からないかもしれませんが…」といった雰囲気が言葉の端々に出てしまうことも少なくありません。しかし、それを聞いている審査員やビジネスパートナーのすべてが医療や介護の現場体験を持っているわけではありません。それだけに、自分の目指すイメージをしっかりと言語化し、それを堂々と語れる中尾氏のピッチはとても印象深いものでした。

福島 私は今回が初めての審査員でしたが、このコンテストが「現場の課題とその解決ソリューションを産業界に提示する」という、いわば見本市のような役割を果たしている点が素晴らしいと感じました。審査員としてもその点を踏まえ、そういったメッセージを出している起業家や起業家チームを高く評価させていただきました。

 イベントの主催は経済産業省ですが、実際には経済産業省と厚生労働省の両省がイベントに対してリソースを割き、課題を明確化するというメッセージを発信していたことは、ベンチャー業界だけでなく産業界にとっても意味のあることでしょう。

 今回は、ビジネスコンテスト部門とは別にアイデアコンテスト部門が用意されていました。ビジネスになる前のアイデアにも多彩な事業がそろっており、とても楽しめました。