1億円出資するなら、1000万円ずつ10社に

ヘルスケアのベンチャー/スタートアップ業界は今、大きな盛り上がりの中にあることが分かりました。では、今後もこの盛り上がりを継続していくためには、どんな取り組みが必要になってくるでしょうか。

木村 ベンチャー側と事業者側、それぞれに取り組むべきことがあると感じています。まず、ベンチャー側が取り組むべきことは、「事業だけではなく、会社を大きくする」ということ。ヘルスケア業界だからといっても特別ではなく、会社を成長させるための取り組みに「もっと投資してほしい」と思っています。

 例えば、今回のジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストに出場したベンチャーは、必ずしも「ヘルスケアだからうまくいっている」というわけではありません。特に優勝したカケハシはその最たる例で、SaaSというビジネスモデルを展開する会社として、マーケティングやセールスといった対顧客向けの活動はもちろん、社内オペレーションや優秀な人材を引き付ける仕組み、あるいは優秀な人材がすぐに実力を発揮できる環境など、会社づくりの観点から見ても非常に優れていると感じています。

 そもそもヘルスケアのイノベーションにおいては、課題自体はすでに誰かが見つけている場合が多く、競争は年々激しくなっています。薬機法の許認可や特許を取れば足掛かりになる部分は確かにありますが、当然それだけでは参入障壁を乗り越えるのに十分とはいえません。ベンチャーにとっては「スピード感」や「実行力」こそが唯一にして最大の強みとなるので、それを最大化してビジネス課題を解決できるチームを組織していくことが最も重要だと思っています。

 一方、事業会社のみなさまにお願いしたいのは、オープンイノベーションや業務提携、M&Aなど、やり方は何でもいいので、とにかく「もっと出資してほしい」ということ。これは、国内のヘルスケア業界において、ベンチャーと事業会社の距離感に「まだ大きな隔たりがある」と感じているからです。

 1社のベンチャーに対して事業会社が「数億円を投じる」というケースがあってももちろん構いませんが、仮に1億円を出資するのであれば、1000万円ずつ10社を応援するようなやり方を選んでほしいと思っています。そうすれば、その1000万円が触媒のような働きをして、必ずしも医療・介護現場のニーズに明るいとは限らない、ただしヘルスケア領域に実はもっと投資したいベンチャーキャピタルから10億円や20億円といった支援を受けられる可能性が広がるからです。このようなアプローチを選択してくれる事業会社がもっと生まれてくれると、より多くの起業家が大きなチャレンジに挑戦できる環境が整ってくると思っています。

藤原 「スピード感」や「実行力」は、私も必要だと思います。例えば、最近ある領域のイノベーションに関する記事を見つけたときに、「以前から取り組んでいた、あのベンチャーが紹介されているのかな」と思って見てみたら、実はまったく別の大企業による取り組みを紹介している記事でした。

 最近は、いつの間にか大企業が独自に参入して事業化してしまっているケースが多いように感じています。ベンチャーがスピード感を持ってうまく事業化できない隙に、大企業が資本力で一気に実現させているという状況は、大企業のヘルスケア業界に対する関心の高まりとともに、競争の激化を示しているといえそうです。

 そういった状況において、求められるのはアイデアや構想を掲げるだけでなく、そのアイデアや構想をスピーディに実現していく能力でしょう。先ほど「医師出身の経営者をプロ経営者が支える二人三脚のベンチャーが増えてきた」という話をしましたが、そういったベンチャーは、今後伸びてくる可能性が非常に高いのではないかと予想しています。

ヘルスケアの定義は、もう少し広い意味で捉えてもいい

福島 「大企業の参入」は私も実感するところですが、「大企業か、それともベンチャーか」といった点は個人的にあまり意識していません。極論で言えば、「課題が解決されればどちらでもいい」というスタンスです。ただし、どちらにしても「スピード感」は重要ですので、私としては大企業や実際の現場を持つ病院・介護グループなどには、次の2つの意味での「買い手」になってほしいと考えています。

 1つは「サービスの買い手」です。資金提供はベンチャーを支援する1つの方法ではありますが、それ以上に望まれるのは、実際にサービスを使ってもらい、そのフィードバックを提供するという対応です。ベンチャーとしては、現場におけるフィードバックが得られれば改善点を速やかにチェックできますし、問題なくサービスが機能すれば「異常なし」ということを確認できるからです。

 もう1つは「M&Aを通じたベンチャー企業の買い手」です。大企業や現場を持つグループには、優れたサービスを利用するだけなく、そのサービスを提供するベンチャーを丸ごと取り込み、結果としてヘルスケアサービスの質の向上スピードが高まると良いと考えております。

 もちろん、ベンチャーの立場から見れば、プロダクトやサービス、ソリューションをしっかり整えIPOを実現することも一つの目標ではあるでしょう。しかし、その後のフェーズでは事業以外の業務も増えるため、「起業家」を最も貴重なリソースの1つと考えるのであれば、その起業家には別の取り組みで新たなビジネスを創造してもらった方が良いとの考え方もあるわけです。このように大企業や医療・介護グループが2つの意味での買い手になってくれれば、現場に即したプロダクトが生まれるとともに、イノベーションの回転スピードも上がるのではないかと思っています。

 それからもう1つ、ヘルスケアの定義について、小さな枠に閉じ込めるのではなく、もう少し広い意味で捉えてもいいのではと感じています。例えば、直接的にヘルスケアを掲げていなくても、シニア向けサービスや保険会社のサービスなども広義ではヘルスケアの一環だと考えられます。そういった捉え方をすることで、ヘルスケア市場への参加者も増えるのではないでしょうか。

今回の鼎談は、Beyond HealthのWebサイトデザインを担当したCINRAのオフィスで実施した

(タイトル部のImage:川島 彩水)