大動脈が動脈硬化と認知症をつなぐ鍵に

キラキラ光る物質はコレステロール結晶と呼ばれるものですね。

 そうです。コレステロール結晶はプラークの中で発生しますが、病理標本作成中に有機溶媒で溶け出してしまうため、標本ではゴースト像(針状の裂隙)として観察され、その存在は長らく認識されていませんでした。つまり医学的に重要視されてこなかったのです。一方、プラーク由来のコレステロール結晶が末梢の細い動脈に詰まり腎障害や皮膚障害、腸管壊死などを引き起こす病態は、コレステロール塞栓症として知られていましたが、血管内カテーテル操作など医原性に起こる比較的まれな疾患と考えられていました。

 しかし、私たちのこれまでの観察では、高血圧や糖尿病、脂質異常症など動脈硬化の危険因子を複数持つ中高年の人々の大動脈では、プラークの自然破綻が日常的に起きている可能性があります。ある時、コレステロール結晶などの内容物が飛び散って末梢の血管を塞栓して、脳梗塞や大動脈解離、慢性腎臓病、足壊疽など様々な重篤疾患の発症・増悪に結びつくと考えられます。

コレステロール結晶は生体で代謝されて消える可能性はないのですか。

 中には消えてなくなるコレステロール結晶もあるでしょうが、プラークから遊離したコレステロール結晶は静脈血ではほとんど観察されません。つまり脳や腎、眼、消化器、皮膚、筋肉などの末梢毛細血管は0~15μmの径しかなく、コレステロール結晶(平均50μm)がそのまま通過することは不可能です。末梢組織の細胞周辺への沈着や毛細血管で引っ掛けられて停滞している可能性があります。

 アルツハイマー型認知症についても原因物質としてのアミロイドβ蛋白をターゲットにした薬剤開発が暗礁に乗り上げていますが、近年の長期的な疫学調査は若年期や壮年期の生活習慣病が血管性だけでなく、アルツハイマー型の発症にも関与していることが示されています。生活習慣病に密接に関連するのは動脈硬化であり、この動脈硬化と認知症とつなぐ鍵になるのが大動脈ではないか。そこから飛散するコレステロール結晶を中核とした微小塞栓子が、脳内の末梢血管に塞栓を経年的に繰り返すことにより脳内の数多くの場所に無症候性脳虚血を引き起こすことが原因ではないかと推測しています。

児玉 和久氏●1966年、山口大学医学部卒業後、大阪大学医学部第1内科入局。大阪警察病院内科、桜橋渡辺病院循環器科を経て 77年大阪警察病院内科医長、79年循環器内科部長。98年副院長、2004年名誉院長。12年NPO法人日本血管映像化研究機構理事長。18年から名誉理事長。(写真:行友重治)

 もっといえば、微小塞栓子の末梢毛細血管レベルでの循環障害は、骨粗鬆症や、サルコペニアと呼ばれる骨格筋の退行性変化、加齢とともに発症する慢性腎障害など老化現象の根源病態であるとの仮説も成り立ちます。「人は血管とともに老いる」との格言を遺したのは医学教育で多大な業績を残したカナダの医学者・内科医ウイリアム・オスラーですが、私は「人は大動脈から老いる」という言葉を提唱したいですね。

様々な重篤疾患や認知症に大動脈のプラークが密接に関与しているなら、それを標的とした予防・治療法が求められますね。

 そうですね。例えば、大動脈瘤や解離はいったん破裂すると死亡する率が極めて高い。病院にたどりつけず原因不明とされている症例や、手術適応に至らないサイズの大動脈瘤症例の突然死も少なくありません。人口高齢化により大動脈瘤や解離の割合は最近40年間に3倍に増加しています。こうしたハイリスク症例は、血管内視鏡を用いて、大動脈内壁の微細損傷やプラーク破綻の状態を観察すれば、発症前の情報が得られることは明らかです。しかし一方で、実臨床では保険適用やコストの面で血管内視鏡の診断を目的とした施行が難しいのは確かです。今後、診療科の枠、業界・業種の枠を超えてあらゆるプレーヤーが大動脈をターゲットとした予防・治療法の学際的研究開発に知恵を絞ってほしいと願っています。

(タイトル部のImage:寺田 拓真)