「認知症はアミロイドβ蛋白の脳への蓄積が原因ではなく、大動脈の粥状硬化巣から噴き出して脳に飛ぶ塞栓物質が引き起こしているのではないか」──。こう主張するのは、血管内視鏡を開発し大動脈内腔の観察に世界で初めて成功した児玉和久氏だ。粥状硬化巣から噴き出た物質は動脈を通って全身の臓器に飛散し、脳梗塞や大動脈解離、慢性腎臓病、足壊疽など様々な重篤疾患の原因にもなるという。血管内視鏡で明らかにされた疾患の真実を同氏に聞いた。

(聞き手は大滝 隆行=Beyond Health)

血管の老化といわれる動脈硬化は心臓病や脳卒中の原因として、世界中の研究者が病態の解明、治療薬の開発に取り組んできたと思うのですが、いまだにその病態は分かっているようで分かっていないという印象です。最近では、高血圧や糖尿病、脂質異常症など動脈硬化の危険因子が認知症にも関係しているといわれています。動脈硬化と疾患、認知症の関係をどのように捉えたらいいか、血管内視鏡を開発し、動脈硬化の様子を実際にこの目で観察し研究してきた先生のお考えをぜひ聞きたいと思って来ました。

 おっしゃるような動脈硬化に対する認識はその通りだと思います。従来の動脈硬化研究は死後の病理解剖の結果から、その病態生理を推測していました。この考えは約6年前、血流維持型血管内視鏡を用いて、大動脈の内腔が観察可能になって大きな変革が起こりました。つまり従来の考えには、ものすごく誤った認識が介在していると気付いたのです。古典的な形態病理学では、亡くなった人の血管内腔や関連組織を死後変化も含め、しかもスタティックな状態(静止状態)で観察します。生きた個体では、動脈や関連臓器は単なる静止物体ではなく、ダイナミックな状態で働いています。死亡後の血管や組織に標本化も含めて種々の人工的な処理を加えることでさらに実像から遠のく状況になります。これまで数多くの医学研究ではその環境の中で、種々の仮説を証明する努力を続けてきました。現実に起こっている病態との整合性が十分には理解されないまま、努力を繰り返していたと考えられます。

 例えば、血管の壁に脂肪と粘調度の高い物質(LDLコレステロール)が付着し、それを内包した粥状硬化巣(プラーク)を形成し、破綻することで血栓形成を促し塞栓状態が生じて急性心筋梗塞や不安定狭心症を引き起こすことがこれまでの研究で解明されてきました。しかし実際にプラークがどういう機序で形成され、進展し破綻するのか。破綻したプラークの内容物が流血中でどのように変化して末梢毛細血管に至り、細胞や組織を破損、破壊してゆくのか、詳細に解明できてはいないと感じています。

 私たちは長年、冠動脈用血管内視鏡の開発研究に携わってきましたが、その改良の過程で約6年前、大動脈内腔を観察可能にしました。世界で初めて生きている人の大動脈内部の詳細な動画像が観察できるようになったのです。この瞬間、その場に立ち会った我々医療関係者全員に大きな衝撃が走りました。大動脈内には我々の浅薄な知識、想像をはるかに超える世界が広がっていました。生命現象をめぐる我々の無知を思い知らされたのです。多くの知り得ていない事象や、事実ではないことを、いかにも既知の真実のごとくに虚偽を伝えてきたということでした。医学関係者はこれまで、患者さんに対してある意味、“債務不履行”をしてきたとも感じました。これまでの診断・治療法を強く反省し、動脈硬化と疾患の関係性を根本から考え直さないといけないことに気が付きました。

胃や大腸など消化管では、早期がんやポリープ、潰瘍などを観察する手段として内視鏡が用いられ、診療に不可欠な存在になっています。血管においても直接目で内腔を見たら診療に有用な情報がたくさん得られそうですね。

血流維持型汎用性血管内視鏡 VISIBLE(提供:インターテックメディカルズ)

 消化器内科の領域では、1952年に東大病院の小児外科医であった宇治達郎先生が「胃壁の内側から観察すれば、胃がんなど消化器疾患を早期に発見でき、正確に診断できる」という発想から消化管内視鏡の開発に成功して以来、内視鏡技術が長足の進歩を遂げ、いまやその役割は確立しています。一方、内視鏡の血管への応用が始まったのは1980年代になってからです。血管は消化管に比べると非常に細く、血球をはじめ種々の生命維持物質を含むため、不透明な血液という液体によって満たされており、透明な視野を得るための実用化には解決すべき問題が数多くありました。

 しかし近年、光ファイバー技術の進歩によって細くて、透明度が高く解像力に優れた光ファイバーが製造可能となり、それを筒状の管に内包させるカテーテルが開発され、さらに血液を排除して透明な視野を確保する手法も考案されました。血液を排除する手法には、大きく分けて血流遮断型と血流維持型とがあります。血流遮断型は観察部位の近位部の内腔を阻血用風船で一時的に遮断し血流を止めた上で、透明液に置き換えて視野を確保し、標的血管であった冠動脈内腔(直径約2.5mm)を観察するものですが、80年代に米国で開発された製品は、阻血中の心筋虚血による死亡事故が相次いだため、1991年にFDA(米食品医薬品局)が臨床使用を禁止しました。 


ブラックボックスだった大動脈の内部

 ほぼ時を同じくして、私たちは独自に、血流を維持した状態で標的部位になるごく一部のみが疎血できないかと考え、血流維持型血管内視鏡の開発を始めていました。光ファイバーを束ねたカテーテルを2重の外筒(誘導用カテーテル+疎血用カテーテル)で覆い、カテーテルと外筒の隙間から透明で粘性が血液少し高い疎血液(低分子デキストラン溶液)を流すことで、透明な視野を確保し、それ以外の血流を遮断することなく観察を可能にしました(図1)。

図1 血流維持型血管内視鏡の撮像の原理(出所:血流維持型大動脈内視鏡診断標準化指針、心臓血管内視鏡 2018;4:1-11.)

 しかしこの構造は疎血液の注入量が極めて少量(0.5mL/秒程度)で、高い安全性は確保できますが、左冠動脈主幹部や、狭窄度の軽い血管径が大きく血流量の多い部位での視野が確保しにくい欠点がありました。そこでこの問題点を改善すべく、疎血液(低分子デキストラン溶液)の注入ルートに冠動脈造影用カテーテルを併用し、疎血量を増加させる方法(デュアルインフュージョン法)を開発しました。1990年、血流維持型血管内視鏡検査は厚生労働省の承認(保険収載)が下りて以降30年間で約4万3000例行われましたが、有害事象の報告は皆無であり、血流維持型血管内視鏡の安全性はほぼ完全に担保されています。

デュアルインフュージョン法によって、心臓の冠動脈だけでなく、上行大動脈から大腿動脈まで大動脈全体を観察できるようになったわけですね。

 はい。それまでは血管内視鏡は専ら冠動脈の観察に使われていたのですが、6年前のある日、検査中に偶然カテーテルが冠動脈から抜けてしまった。その像を再生し詳しく分析すると、大動脈内腔が撮像されていました。つまりこの血管内視鏡は大動脈内腔も観察できることに気が付きました。「まさに天のお導きか!」その瞬間、寒気を覚えました。その後、用心深く大動脈の観察を開始しました。症例を積み重ねていくに従い大動脈内腔の驚異に満ちた世界とともに、同時に安全性が極めて高いことも分かってきました。現在まで大動脈内腔の観察は国内で3000例ほど行われましたが、有害事象の報告は皆無で、安全性はほぼ確立したと申してよいと思います。

 現在この血管内視鏡は、冠動脈~大動脈~末梢動脈~静脈系のほぼ全ての血管の観察が可能であることから、血流維持型汎用性血管内視鏡と呼称しています。心臓からの出口に当たる大動脈弁口部から上行大動脈、大動脈弓部、胸部下行大動脈、腹部大動脈、両下肢へ分岐した総腸骨動脈、そして大腿動脈と、観察可能な領域は動脈のほぼ全領域です。冒頭に述べたように、初めて観察した、生体でダイナミックに機能する大動脈の動画にはまさに激しい衝撃を受けました。血管内視鏡で観察したほぼ全例の大動脈の内腔には、おびただしく破綻した粥状動脈硬化像が観察され、さらに多くの破綻プラークからその内容物が大動脈内腔に突出し、遊離、浮遊する様子や、同時にそれらに交じりプラークから照明を反射してキラキラ光る結晶状の物質、血栓様物質が噴出し、血流に浮遊して末梢へ飛散する様子が映し出されていたのです。このような動画はこれまで医学上で報告されたことはなく、初めて出会う驚くべき光景でした。

血管内視鏡で観察した大動脈。左は正常大動脈内壁、右はプラークが破綻して湧出したコレステロール結晶が光を反射して白く輝いている。(提供:日本血管映像化研究機構)

 現在までに至る臨床医学では、大動脈は血管造影やコンピューター断層撮影装置(CT)、血管内超音波(IVUS)などの間接的検査法でしか観察、診断が難しく、ブラックボックスと見なされていました。プラーク破綻は大動脈壁の病理組織標本で診断するだけでした。

 そこで私たちは2015年10月1日から17年9月30日までに大阪暁明館病院(大阪市此花区)心臓血管センターで冠動脈疾患が疑われ、冠動脈造影と血管内視鏡を施行した連続324人(平均年齢71歳)を対象に、大動脈プラークの頻度を調べてみました。そのうちの262人(80.9%)に自然破綻した大動脈プラークが見つかり、破綻したプラークからはキラキラと光を反射する物質が飛散、浮遊している様子が観察されました。この結果をまとめた論文は循環器領域で最も権威ある米国心臓病学会誌(JACC)2018年6月25日号に掲載され、世界の注目を集めています。


大動脈が動脈硬化と認知症をつなぐ鍵に

キラキラ光る物質はコレステロール結晶と呼ばれるものですね。

 そうです。コレステロール結晶はプラークの中で発生しますが、病理標本作成中に有機溶媒で溶け出してしまうため、標本ではゴースト像(針状の裂隙)として観察され、その存在は長らく認識されていませんでした。つまり医学的に重要視されてこなかったのです。一方、プラーク由来のコレステロール結晶が末梢の細い動脈に詰まり腎障害や皮膚障害、腸管壊死などを引き起こす病態は、コレステロール塞栓症として知られていましたが、血管内カテーテル操作など医原性に起こる比較的まれな疾患と考えられていました。

 しかし、私たちのこれまでの観察では、高血圧や糖尿病、脂質異常症など動脈硬化の危険因子を複数持つ中高年の人々の大動脈では、プラークの自然破綻が日常的に起きている可能性があります。ある時、コレステロール結晶などの内容物が飛び散って末梢の血管を塞栓して、脳梗塞や大動脈解離、慢性腎臓病、足壊疽など様々な重篤疾患の発症・増悪に結びつくと考えられます。

コレステロール結晶は生体で代謝されて消える可能性はないのですか。

 中には消えてなくなるコレステロール結晶もあるでしょうが、プラークから遊離したコレステロール結晶は静脈血ではほとんど観察されません。つまり脳や腎、眼、消化器、皮膚、筋肉などの末梢毛細血管は0~15μmの径しかなく、コレステロール結晶(平均50μm)がそのまま通過することは不可能です。末梢組織の細胞周辺への沈着や毛細血管で引っ掛けられて停滞している可能性があります。

 アルツハイマー型認知症についても原因物質としてのアミロイドβ蛋白をターゲットにした薬剤開発が暗礁に乗り上げていますが、近年の長期的な疫学調査は若年期や壮年期の生活習慣病が血管性だけでなく、アルツハイマー型の発症にも関与していることが示されています。生活習慣病に密接に関連するのは動脈硬化であり、この動脈硬化と認知症とつなぐ鍵になるのが大動脈ではないか。そこから飛散するコレステロール結晶を中核とした微小塞栓子が、脳内の末梢血管に塞栓を経年的に繰り返すことにより脳内の数多くの場所に無症候性脳虚血を引き起こすことが原因ではないかと推測しています。

児玉 和久氏●1966年、山口大学医学部卒業後、大阪大学医学部第1内科入局。大阪警察病院内科、桜橋渡辺病院循環器科を経て 77年大阪警察病院内科医長、79年循環器内科部長。98年副院長、2004年名誉院長。12年NPO法人日本血管映像化研究機構理事長。18年から名誉理事長。(写真:行友重治)

 もっといえば、微小塞栓子の末梢毛細血管レベルでの循環障害は、骨粗鬆症や、サルコペニアと呼ばれる骨格筋の退行性変化、加齢とともに発症する慢性腎障害など老化現象の根源病態であるとの仮説も成り立ちます。「人は血管とともに老いる」との格言を遺したのは医学教育で多大な業績を残したカナダの医学者・内科医ウイリアム・オスラーですが、私は「人は大動脈から老いる」という言葉を提唱したいですね。

様々な重篤疾患や認知症に大動脈のプラークが密接に関与しているなら、それを標的とした予防・治療法が求められますね。

 そうですね。例えば、大動脈瘤や解離はいったん破裂すると死亡する率が極めて高い。病院にたどりつけず原因不明とされている症例や、手術適応に至らないサイズの大動脈瘤症例の突然死も少なくありません。人口高齢化により大動脈瘤や解離の割合は最近40年間に3倍に増加しています。こうしたハイリスク症例は、血管内視鏡を用いて、大動脈内壁の微細損傷やプラーク破綻の状態を観察すれば、発症前の情報が得られることは明らかです。しかし一方で、実臨床では保険適用やコストの面で血管内視鏡の診断を目的とした施行が難しいのは確かです。今後、診療科の枠、業界・業種の枠を超えてあらゆるプレーヤーが大動脈をターゲットとした予防・治療法の学際的研究開発に知恵を絞ってほしいと願っています。

(タイトル部のImage:寺田 拓真)