患者や医療者をファンにするウェブコンテンツとは

 今やインターネットを活用した情報発信・PR活動は盛んですが、病院や学会も広報領域においてウェブサイトやSNSが積極的に活用しています。ただ、これらの広報活動で“あるある”なのが、格好良く作って、情報も繰り返しアップデートしているけれど、特に何も起きていない、もしくは効果のほどがさっぱり分からないということ。

 これって非常に残念なことですよね。例えば、医師なら医局の秘書さんにホームページに掲載するためにこんなテーマで文章を書いてくれとお願いされると、だいたい当直中にやるんですよね。面倒くさいので、とにかくチャチャっと書いて出す。それでホームページに掲載されたところで、何の感慨もなく、残るのは自分の労力は何だったのかというモヤモヤ感だけ。面白くもなんともないのです。

 でも、本当は患者や医療者をファンにするウェブコンテンツというものは存在します。そして、きちんとそれらが効果を上げているエビデンスも出ています。

 少し話は飛びますが、昔は、山手線に10万人乗っているから、そこに中吊り広告を出したら情報暴露の視聴率から言ってこれだけ物が売れる可能性があるといったことが語られていたと聞きます。でも、購買するに当たっては何らかの必然性がなければ、人間は動かないということは今ではよく知られています。つまり、人間の行動では必然性が非常に大きなウェートを占めている。となると、ウェブのコンテンツも、モニター画面を介してだけれど画面の向こうにいる視聴者に刺さる内容が必要です。

 医療系でよく挙がる例が乳がん検診の受診勧奨について。単に乳がん検診があるから受診してくださいという案内よりも、乳がんの罹患に伴う危機感をあおった方が受診率は高まるという結果が出ています。

それは行動経済学でいうナッジですね。(編集部注※行動経済学のナッジは、人の背中を押すように、ちょっとした工夫や仕組みで個人に気づきを与え、よりよい選択ができるように支援する手法を指す。関連記事

 そう、ナッジです。ただ、ナッジはあくまで不特定多数の人に対して行うマス・アプローチのやり方ではあるのですが。病院や学会のマーケティングなら、特定の集団に対してアプローチしていく必要があります。

見ている人が必然性を感じて行動を変容するに至るには高いハードルがあるように感じます。

 確かにそうです。でも工夫次第です。分かりやすい例でいうと、学会が参加人数を増やしたい場合にどうするかで説明したいと思います。

 学会が始まる前の公式サイトに関して例えば3カ月前には何がどういうふうに見られているかを分析するんですよね。学会会場までのアクセスのページがよく見られていれば、ほとんどの場合、来ることを前提としている人が見ているのだから、だいぶ参加人数も多くなることが予想される。一方、プログラムページを見ている人が多ければ、行こうかどうしようか、などとまだ参加を決めている人が多いことが分かります。そうであれば、この参加を決めかねている人たちに向けて、プログラムページの情報量を充実させていく。すると、実際にそのページから流れて学会への登録ボタンを押した人数が増えるということが起こり得るのです。

 学会の参加者というのは、これまで予測できなくて主催者は本当に困っていた。ですが、我々がここ2~3年でこの仕事に携わるようになって、支援させていただいた学会については、開催前3カ月のウェブのデータを使って開幕までの登録人数をシミュレートした結果、実測値は9割の精度で推計値のレンジに収まって推移しました。中でも下限値を割ったことはなく、大会長の先生方には下限の予測がつくのは安心材料だと言ってもらっています。

 他の例としては、病院のホームページは建物をやたら大きく出しがちですが、あれは全くダメですね。同じ写真であっても、無人の建物、無人の外来診察室よりも、生身の人間の現場、外科医の先生の汗が流れているといったものの方が、モニター画面の先の患者さんだったり求職者を食い付かせています。やっぱり人と人のつながりが大事というか、人が命を預けたいのは人、人が共に働きたいのも人なんだとつくづく感じますね。われわれはそうしたウェブの無意識下での行動分析も行っています。

 ところで医学の世界では、EBM(evidence based medicine;根拠に基づく医療)の重要性が叫ばれて久しいですが、私は医療広報の世界も、根拠に基づくことが大事だとして、EBPR、すなわちevidence based PRの考え方を提唱しています。いつまでも経験と勘のみに頼った手法では、非効率的で生産性はありませんので。今後も積極的に打ち出していきたいと思っています。