胃や大腸などの消化管と同じように、血管の内部を内視鏡で観察したい──。しかし、血管は消化管に比べると非常に細く、不透明な血液で満たされている。循環器医の難しい要望に、光ファイバー技術を駆使して極細径内視鏡(イメージファイバー)を製品化し見事に応えたのが、ファイバーテックの妻沼孝司氏だ。開発の経緯や今後の技術発展の方向性について同氏に話を伺った。

(聞き手は大滝 隆行=Beyond Health)

内視鏡の血管への応用は1980年代に始まり、欧米では観察部位の血流を阻血用風船で一時的に遮断する血流遮断型血管内視鏡が開発され(後に心筋虚血事故により使用禁止)、日本では児玉和久先生(現・日本血管映像化研究機構名誉理事長)のグループが1988年に、世界で初めて血流維持型血管内視鏡の試作版を発表しました(関連記事)。その開発には、御社の光ファイバー技術による大きな貢献があったと聞いています。

 ファイバーテックの親会社フジクラは現在、自動車電装部品やエレクトロニクス関係の部品なども扱っていますが、以前は藤倉電線という社名で、メインのビジネスはNTTさん向けに共同開発した通信用光ファイバーでした。つまり、私たちの技術のベースは通信用光ファイバーなのです。

 通信用光ファイバーは今や社会インフラに不可欠な製品になり、世界中に光ファイバー網が張り巡らされているわけですが、開発当初から一気に普及したわけではなく、値段の面やコストの問題などから、当時はそれほど大きなマーケットではありませんでした。そのため、通信用以外の光ファイバーの応用が研究開発テーマとして掲げられ、医療分野でも何かできないかと。以来、私は30年以上それ一筋でやってきたようなものです。

1980年代後半に児玉先生が血流維持型血管内視鏡を考案し、東京・湯島のベンチャーと開発を進めていましたが、そのベンチャー社長が急逝し開発が頓挫してしまう。その会社にいた人が血管内視鏡の開発を何とか続けたいと考え、ちょうどそのとき、医療分野での光ファイバーの応用を考えていた妻沼さんの所に話をもっていったと聞いています。

血流維持型汎用性血管内視鏡 VISIBLE(提供:インターテックメディカルズ)

 そうですね。ですので、その開発の出だしは、通信用光ファイバーの応用だったわけです。通信用光ファイバーは、芯径125ミクロンの光ファイバーが1本なんです。光ファイバーは、光信号が通る「コア」と、光信号が全反射するように屈折率の低い「クラッド」という2層の石英ガラスで構成されているのですが、コアの部分は10ミクロン以下と非常に小さい。その中を光の信号がオンオフで伝わっていきます。それをイメージファイバーにするためには何千本を束ねる必要があります。児玉先生のところで使っていただいているVISIBLEという製品も、6000本を束ねたものです。

6000本ですか?

 ええ。その6000本の光ファイバーが光の強度であったり、色であったり、そういった情報をそれぞれ伝えています。それを端から端で見ると、これは金太郎飴と同じで、同じものが6000本きちんと整列をしながら、ある距離、例えば血管用の場合ですと、3メートルぐらい同じ形で並んでいると考えてください。これをイメージファイバーと呼んでいます。材質が石英ガラスであることから、非常に低損失・高強度であることや、耐熱・耐放射線といった耐環境性に優れているといった特徴があります。またクラッド部を共有する溶融一体化構造を有するため、外径の非常に細いファイバーを得ることができます。

無制限に画素密度は上げられない

 ただ、それだけでは、画像を取り込んだり映し出したりできないので、先端に非常に小さい対物レンズを付け、もう片方で、拡大鏡のようなもので拡大して、その上で見る。これを、例えばTVカメラなどに結像することで、モニター画面上で画像が見えるというのが基本構造です。さらに、血管用では内腔全体に十分な視野を確保するため、先端から疎血液を流して血液をフラッシュ(排除)するのですが、その際のフラッシュの位置と量の適正化が難しく、何度も改良を重ね、血流維持型血管内視鏡として製品化にこぎつけました。

妻沼さんはエンジニアとして、その開発一筋に注力されてきたと。

 そうですね。イメージーファイバーそのものを開発したんです。当時、国内の光ファイバーメーカーは三菱、古河、住友など大手だけでも4、5社あったんです。各社で同じようなことが考えられて作ってはいたんですけど、結局それをどういうふうに応用していくかというところが難しくて、皆さんほとんど諦められ、現在残っているのは私たちのイメージファイバーだけですね。血管内視鏡という用途で児玉先生が当初から本当に力を入れられていたので、それが世に出たときには、センセーショナルな話題になりました。

先生方とともに血管の中を見たいという大きな目標と熱意があったため、それが実現したんですね。光ファイバーのそれぞれのコアを遮光していく、その周辺の包み込み具合が大変だそうですね。

ファイバーテック最高技術顧問の妻沼氏(写真:寺田拓真)

 そうなんです。先生方からもっと画素数を増やして鮮明な画像を、という要望があり、より細く細くと努力していったんですけど、やはりそれぞれのファイバーの遮光性がきちんと保たれていないと露光して、画像が不鮮明になってしまうんです。ハレーションみたいな変な感じになって無制限に画素密度を上げられません。少なくとも鮮明な画像が反復できるような画素数は3000本なんです。3000本ぐらいが1単位にならないと、いわゆる画像にはならないんです。ですから、さらに3000本から6000本にできましたが、この辺の開発は大変難しかったですね。

涙道用内視鏡として眼科領域にも応用

血管内視鏡を使用している病院はまだ限られています。先生方の熱意があっても、メーカーとしたら市場性がないと諦めたりするじゃないですか。そこはどうして続けてこられたんですか。

 日本発の技術であるという点が、一番大きいと思うんです。今では、通信用光ファイバーは一般化していて、世界中にメーカーはそれなりにあるんですけれども、このイメージファイバーを作っているのは本当にうち1社みたいな形になっていて、ほぼ独占と言ってもいいのかもしれない。世界初のオリジナリティーがあり、日本発の技術、やっぱりこういう技術を持ち続けることが非常に重要だと考えています。

 将来性についても、これまで冠動脈の方だけで使われてきた血管内視鏡が、ここに来て、児玉先生のチームが大動脈の観察にも使えると(動画1)。この辺は私たちも非常に期待しています。今後日本だけじゃなくて世界への展開というものも含めて、ぜひやっていきたいと、私たちのモチベーションになっています。

動画1●70代男性の大動脈内視鏡像

粥腫(プラーク)に小亀裂や一過性の血液流出を認め、コレステロール結晶などが湧出、浮遊している。(動画提供:日本血管映像化研究機構)

血管以外の用途についてはどうですか。

 イメージファイバー単体であれば、既に泌尿器科や産婦人科用に、ドイツのメーカーが私たちのファイバーを使って製品化しています。私たちも、眼科領域において眼内内視鏡や涙道用内視鏡を開発しました。眼内内視鏡は、従来の顕微鏡下硝子体手術では視野確保が困難だった角膜や水晶体の混濁・裂傷など、眼底の透視が困難な硝子体手術や緑内障手術の際に使用します。涙道用内視鏡は、従来観察不可能だった涙道内腔全体の観察を可能にしたイメージファイバーで、鼻涙管閉塞などの症例の観察に用います。ステントのようなチューブを涙道に留置しある程度広げて、後からそれをもう1回抜いて涙路を確保するという手技です。これも日本発の医療機器なんですね。だからこれを世界に何とか広めていきたいと、先生方といつもお話しさせていただいています。

 また、消化器内視鏡としてオリンパスさんとか富士フイルムさんがやっておられるものと方向性は同じですが、ファイバーに代えて電子内視鏡化はしていこうと考えています。先生方からも解像度をもっと上げたいなどのご要望がありますので、それにマッチするようなものを開発していきたいと考えています。その際も、やはりいかに小さく作るか、仕上げるかというところが非常に技術の要るところですが、弊社と親会社のフジクラを含めて、小型化というオリジナリティーの技術が生かせるのではないかと思っています。

(タイトル部のImage:寺田拓真が撮影)