日本女性の11人に1人がかかるとされる乳がん。早期発見できれば9割以上は完治が見込めるが、がん検診で広く使われているマンモグラフィ(乳房X線診断装置)は、乳房のタイプによってはがんを見つけにくいという弱点がある。この点を補うために超音波検査を併用する必要性も議論されているが、超音波検査にもまた課題があり、乳がん検診は精度においてまだ十分とは言えない面が残っている。

Lily MedTechが開発中の「リングエコー」(写真:剣持 悠大、以下同)

こうした従来の検診装置の課題を克服する新しい装置「リングエコー」の開発に挑んでいるのが、2016年に設立されたベンチャーのLily MedTechだ。東京大学COI(センターオブイノベーション)の医療用超音波技術を基に、乳房全体をMRI(磁気共鳴画像)のように3Dで撮像する装置であり、2年以内の実用化を目指す。同社の代表取締役を務める東志保氏に、これまでの経緯と上市にかける思いを聞いた。

(聞き手は黒住 紗織=日経BP総研 メディカル・へルスラボ)

日本人の乳房はマンモではがんが見つけにくい

御社が開発している乳房用超音波画像診断装置「リングエコー」は、現行の乳がん検診の問題点を克服する装置とうかがいました。まず、乳がんの現状と、現行の乳がん検診の課題について教えてください。

Lily MedTechの東氏

 乳がんの罹患者は年々増えていて、日本人女性の11人に1人がかかるがんです。女性の死亡数としては大腸がんや肺がんよりは少ないですが、30代から64歳までの死亡原因ではトップ。働き盛り世代の女性の命を奪うがんという意味で、家族や社会に対する影響が大きながんといえます。早期で発見すれば、9割以上が助かるがんですが、そのためには画像検診を受けるしかありません。

乳がんと他のがんの年齢別罹患率の比較(図:国立がん研究センターのデータ[図中に記載のもの]を基にBeyond Healthが作成)

 その標準的な検査装置であるマンモグラフィ(以下マンモ)は、早期の段階のがんに伴うことがある石灰化という状態を写し出せるという強みがあります。ただし、X線ではがん病巣も乳腺も白く映るため、乳腺の密度が高いデンスブレストと呼ばれるタイプの乳房の人のがんは、見つけにくいという弱点があります。

 デンスブレストの乳房を持つ人の割合は若年であるほど多く、40代女性の70%以上がデンスブレストに該当します1)。特に日本を含む東洋人にはこのタイプが多いことがわかってきています2)。日本人にとっては特にこの点は重要な課題です。

乳腺が白く映るデンスブレストが多いことが問題
写真の左の2つは、乳腺密度が低い脂肪性乳房なのでがんが映りやすい。それに対して、右の2つの写真は乳腺密度が高いデンスブレストで、乳腺が白く映るため、その後ろにあるがんが見つけにくい。乳腺のタイプで4つに分けられている。(画像提供:湘南記念病院乳腺外科 井上謙一医師)

 また、できるだけ少ないX線量で乳房全体を撮影するために乳房を板で挟み薄く伸ばす必要があり、乳腺密度の高い乳房では、強い圧迫によって痛みを感じやすくなります。国内での乳がん検診受診率が約4割と先進国の中で非常に低い3)のは、検査時にこうした苦痛があることも関係していると考えられます。

 一方、乳腺の密度に関係なく病巣を映し出せる検査としては超音波検査(エコー)があります。しかし一般的なエコーは、超音波を受信するプローブ(探触子)を検査技師が持ち、乳房の上を移動させながら撮像するため、プローブが接している部分の画像しか得られません。撮り残しのリスクがあったり、がんを探す技師の力量によって検診結果の精度レベルがまちまちであったりするのが問題点です。