MRIのような均質な3D画像に、強い衝撃

このマンモとエコーの双方の課題を解決するのが、新しい装置なのですね。どんな装置ですか。

 リングエコーはベッド型の装置です。ベッドの中央に穴が開いていて、内側の容器にはお湯が満たされています。容器の中にはリング状の振動子が取り付けられており、超音波を発します。

リングエコーの開発装置イメージと、リング状の振動子のイメージ図(出所:Lily MedTech)

 被験者はベッドにうつぶせになり、この穴に乳房を入れて約10分間寝ているだけで、装置が自動的に乳房全体を撮像してくれる仕組みです。ですから、マンモのような圧迫による痛みはありません。超音波検査なので、デンスブレストでも腫瘤を見分けることができ、放射線の被曝リスクもゼロです。

 装置が自動的に乳房全体を撮像するので、誰が検査を行っても均質な画像が得られるので技師のスキルは影響しません。さらに、将来的には写し出された異常箇所の良悪性を判別するAI自動診断支援機能も搭載していきます。

現行の検診装置の特徴と弱点の比較と、それに対するリングエコーの特徴(表:取材をもとにBeyond Healthが作成)

それを可能にしたのはどのような技術なのでしょうか。

 名前が示すとおり、「リング状」がカギです。一般的なエコーが一方向からしか超音波を放出・反射できないのに比べ、リングエコーは超音波振動子が乳房を取り囲み、360度あらゆる方向から超音波を放出・反射、受信するため、高精度な3D画像が得られます。試作機ではマンモグラフィでは写らなかった15㎜の乳がんの撮像に成功しています。

リング状の超音波振動子(出所:Lily MedTech)

 多方向から超音波を送信・受信し、透過波を使って画像化する研究は、米国メイヨークリニックで1970年代から行われていました。でも、当時は膨大な情報を処理するのに時間がかかり、実用化に至りませんでした。

 それが、ここ5~10年の間にGPU(並列演算処理)の目覚ましい発展で画像表示の高速化が進み、画像診断技術にも使われるレベルになりました。一度はお蔵入りしたメイヨークリニックの研究が再び日の目をみることになったのです。

 国内では、東大COIのご支援の元、超音波で360度取り囲むリングエコーの技術を研究開発するプロジェクトを夫が2013年ごろに立ち上げました。2015年に、先述のメイヨークリニックの元研究員が立ち上げた企業から、同じ技術を用いた装置のPOC(プルーフオブコンセプト。新たな発見や概念の実現の可能性を実証すること)画像が発表されました。

 これまでの超音波画像とは全く違ったアーチファクト(超音波画像における虚像)もない面内において均質な分解能の画像で、まるでMRIのような画像に夫も私も強い衝撃を受け、ぜひ日本でも、と一気に事業化への機運が高まりました。今では、我々は別の撮像機能を開発しており、彼らはより研究要素の強い機能に特化しているのに対して、弊社はより実用的な機能を中心に開発しています。

 元々夫が超音波治療の研究者ということもあり、当時、東大で開発されたリングエコーは、FUS(集束超音波治療。病巣に超音波を集中照射し、切開せずに組織を焼灼する治療法)への応用を見据えた治療機器としての研究でした。しかし、治療機器使用するためにはリアルタイムで治療をモニタリングする必要がありますが、FUSはすべてMRIのガイド下で行われており、高価であることや台数が限られていることなどから実施医療機関が限られている実情があります。

 そこでまず、治療のモニタリング装置(画像診断装置)を開発する必要があり、空気や骨といった超音波にとって強い反射体が内部にあると、その奥まで音が入りにくいという特徴から、技術的にハードルの低い部位として、まず注目したのが乳がん分野だったのです。乳房は、形状的に出っ張っている部位であるので、部位全体を取り囲んで撮像するというリングエコーの技術に親和性が高かったこともありました。