2年以内の実用化目指す

もともとエンジニアだった東さんが代表取締役に就任した経緯は。

 当初、社長は外部からスカウトするつもりでした。でも、この人にお願いしたいと思った方から週2日勤務ならという条件を提示され、それでは世の中にない価値を提供するという大きなチャレンジの実現力、社員のモチベーション維持の点で難しいと断念しました。ちょうど、 「単なる画像診断装置をつくるだけなら大手メーカがやってもいい。あえてベンチャーがやるなら、社会変革を起こすくらいの気概が社内になければやる意味がない」と思い始めていたころです。

 全面的にリスクをとれる人間が社長にならないと、社員は動かない。夫の強い勧めもあり、経営は門外漢の私が社長として表に立つことを最終的に決めたのです。

 運よく、就任後2カ月ほどでベンチャーキャピタルと一緒に、ベンチャーキャピタルの出資を条件に交付される大口の補助金に申請してみようということになり、そこから一気に歯車が回り始めました。

創業準備期にはNEDO-STS(新エネルギー・産業技術総合開発機構のシード期の研究開発型ベンチャーへの助成事業)に選ばれ、創業後もAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)など公的機関の助成のほか、ビヨンド・ネクスト・ベンチャーズなどから出資を受けておられます。投資家は、どこを評価したと思いますか。

 結果はおろか、まだ何も始まっていないも同然の状態で、しかもベンチャーとなると、どんなことが起こるか想定できない。そうなると投資家が賭けるところは社長くらいしかないんですね。

 ある投資家からは、「なんかよくわからないけれど、やりきる能力があるんじゃないか」と言われました。それさえあれば、何とかなる。今は未熟でも、自立していける、と思っていただけたのではないでしょうか。

 自分では、とにかくしつこい、しぶとい人間だと思っています。こうと決めたらなかなかひかない。生意気と受け取る人もいるでしょうけれど、事業に対する執着心が異常なほど強い。思いが強い分、妥協しないんです。

リングエコーの今後の見通しは。

 リングエコーは医療機器としての承認審査をPMDA(医薬品医療機器総合機構)に申請する予定で、2年以内の実用化を目指しています。デンスブレストの女性や20、30代など、現行のマンモグラフィ検査が推奨されていない年代の女性を主な対象に、まず大学病院から、そして地方の基幹病院やブレストセンター、乳がん検診に力を入れているクリニックへと広げていければと考えています。装置の価格は、今の3DマンモとMRIの間くらいの価格帯を目指しています。

 日本は世界の中でも群を抜いて超音波技術が発達している国。近年、米国でもデンスブレストの問題が大注目を浴び、このタイプの乳房の人たちへの対応が課題になっていると聞いています。そうした意味で、市場はアジアだけでなく、米国、EUなども見据えています。

東 志保(あづま・しほ)
アリゾナ大学工学部卒、総合研究大学院大学博士課程中退。JAXAで惑星探査機に搭載するエンジンの開発研究、日立製作所中央研究所ライフサイエンスセンターで医療用超音波の研究に従事するなどの職歴を経て、2016年5月Lily MedTechを設立、代表取締役に就任。


1)Am J Roentgenol. 2012 Mar;198(3):W292-5. doi: 10.2214/AJR.10.6049.
2)Int J Epidemiol. 2001 Oct;30(5):959-65.
3)国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」,国民生活基礎調査による都道府県別がん検診受診率データ, がん検診受診率2016年

(タイトル部のImage:剣持 悠大)