「声に出してはいけないと思っていた」との感想が…

PX研究会は2016年に創立、2018年2月に一般社団法人化しました。PXの考え方は、国内でも広がりつつありますか。

 PX研究会にはコアなメンバーが20人ほど、全体は150人規模ですが、今はアーリーアダプターが集まっている段階と見ています。それでも北海道から福岡まで、多くの病院が関心を持ってくれています。PXは病院に限った話ではなく、製薬企業やヘルスケア関連企業の方々もたくさん参加しています。とりわけ製薬企業の場合、グローバルの流れとしてペイシェントファーストの考え方が注目されていることもあり、大学とコラボしてデザイン思考を採り入れたプロジェクトを手掛けようとしたりするなど、新規事業にPXの視点を導入できないかと可能性を探っているようです。

米国とは環境も制度も異なります。啓蒙には苦労する点もあるのでは。

 ご指摘の通り、2016年に初めてPX勉強会を開催した際は2カ月かけて300病院に参加を呼びかけ、案内のためにFAXまで購入したものの無反応。参加してくださったのは知り合いの7人でした。毎月開催していても参加者は一向に増えず、無料の勉強会なのにと歯がゆさを感じていました。正直、現段階でのPX浸透は無謀かとあきらめかけたこともありましたが、立ち上げから参画してくれたメンバーの存在に勇気付けられ、勉強会を1年間続けることだけは決めました。

 そのうちに、一人、また一人と賛同してくださる方や一緒に活動してくださる方が増えて行きました。とはいえ、日本で浸透しているかといえばまだまだで、3年経過した今でも勉強会の参加者は20人程度です。

 確かに壁は大きく、PXに取り組んだからといってすぐに診療報酬に跳ね返るわけでもないので、病院が消極的なケースも多々あります。一方、厚生労働省が2015年に発表した「保健医療2035」で患者中心の医療へのシフトが明言されているように、国も注目し始めています。ただ、診療報酬にPXを入れる議論には至っていないようなので、まず私たちがPXによる医療費削減効果などをエビデンスとして提出することが次のチャレンジと考えています。

 とはいえ、石を投げてみると特に医師や看護師にヒットすることがわかってきたのは収穫です。驚いたのが「患者中心の医療をしたいと考えていたけれども、それを声に出してはいけないと思っていた」との感想が多いことです。

「医療はこうあるべき」というフタがされていたということですね。

 そのフタをいったん外して、患者にとってのQOL、本当に患者の求める価値がわかるようになれば、個別化した医療サービスの提案ができるようになります。エクスペリエンスの本質は究極の患者視点、より一般的に言えば顧客視点を持つことです。マーケティングにおいて個別性は当たり前のことですが医療界ではまだこういった考えが浸透していませんので、患者視点を持っている医療者がニッチな存在になっています。私たちはそれをマジョリティに変えていきたいです。