「スタバ」の何があなたを惹きつけるのか?

一般企業の領域では、顧客を主人公としたマーケティング手法であるカスタマー・エクスペリエンス(CX)、ユーザー・エクスペリエンス(UX)の導入が増えてきています。こうした事例のベンチマークはあるのでしょうか。

 スターバックスは先進事例と捉えています。PX研究会でも一度、スターバックスの事例を使ってエクスペリエンスを考えてみたことがあります。そこでは「スタバの何があなたを惹きつけるのか?」と問いかけたのですが、コーヒーの味や匂いといった五感だけではなく、店の雰囲気などの第六感で選んでいる人が多かったのです。「あの場所で読書している自分が好き」「Macを広げて作業している感じが好き」といったことです。

 まさしく感情や感性の部分で顧客がスタバとつながっていて、高い顧客ロイヤルティを生み出しています。その要因の一つにスタバの店員の存在も影響していると考えています。店員は自分がスタバで働いていることに誇りを持っているように見えますし、店員の積極的なコミュニケーションが気分良くさせてくれます。いやいや働いている店員を探す方が難しい。店員のそうした空気感が織りなしている空間だから心地よいのであり、それがエクスペリエンスの本質だと思っています。

 もちろん、病院にスタバで学んだことをそのまま持ち込むのは難しいのですが、忙しい中でも看護師が一声かけて患者の不安を和らげたり、病院のミッションやバリューを職員全員で考え共有したりすることで誇りを持てるようにするなど、できることも沢山あります。

今後のPX研究会の活動は。

 研究会の会員属性はいろんな領域にまたがっているため、やりたいこと、興味のある分野が違います。そこで今後は会員の興味に沿ったワーキンググループを作り、大きくアカデミック部門とビジネス部門と役割を分けて進めていきたいと考えています。

 アカデミック部門はPXに関するサーベイデータから、先ほど触れたような医学的エビデンスを収集・分析していく形です。対するビジネス部門は、患者の感情や行動を含めたビッグデータを活用して、病院運営や企業の患者に対する訴求に役立てていきたいです。今まで医療機関が収集してきたデータは心拍数や血圧などのバイタル中心でしたが、これからは患者の感情や行動など、エクスペリエンスを可視化することが必要だと思っています。

 何に価値を感じるかは患者によって異なります。もちろん、優秀な医師に良質な医療を受けたいという共通基盤はあるとして、その先には「クイックな診療でもいいからとにかく待ち時間を少なくしてほしい」「食事には多少目をつぶるからいいコミュニケーションと待遇を重視したい」といったようなニーズが個別に存在します。

 これらの潜在ニーズを掘り起こしてエクスペリエンスデータを蓄積すれば、仮に保険会社が患者に病院を紹介するときに「こういうタイプの病院がありますよ」と、エクスペリエンスドリブンで提案型の紹介が可能になります。このように、PXを極めれば患者の価値に沿ったサービスを提供する一助にもなるはずです。

 もう1つ、病院で働く人たちに向けたエンプロイーエクスペリエンス(EX)も重要なテーマです。職員が疲弊してしまうと悪影響が出てきます。忙しすぎて看護師が患者のケアに注力できなくなってしまったり、医師が機械的に診療したりすると患者の満足度が下がりますし、それはサーベイのデータからも明らかになっています。また、職員が病院で働いていることに誇りを感じられなくなると、それが患者に影響して患者満足度が下がるとのデータもあります。PX研究会として、EXとPXの相関を示して行きたいです。