13億人を超える人々が暮らす中国。その中国では、「健康ブーム」が訪れている。元来、健康に気を使う民族だったのに加え、近年の経済発展によって健康に投資する人々が各段と増えているのが現状だ。そんな中、健診データや処方箋情報など健康に関する情報を一括して管理するプラットフォームを構築しようとする企業が現れた。上海星康鏈科技(Shanghai HCDL、以下HCDL)だ。プラットフォームを介して、市民は病院をはじめとする健康に関するサービスを享受する仕組みを目指す。既に地方都市においては、実証実験のフェーズに入っているという同社の取り組みを、創立者&CEOの黄邦瑜氏に聞いた。

(聞き手は木村 知史=日経BP総研クリーンテックラボ上席研究員)

黄邦瑜(HUANG BANGYU)
上海星康鏈科技 創立者&CEO兼FOSUN PHARMAデジタルイノベーション チーフ顧問(2019年4月~現在)
その前は復星集団(フォースングループ)副CTO&ヘルスケアセクターCTOなども務めた。 2015年1月、フォースングループに入社、グループ全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)をミッションとして、積極的に全社のDX戦略を企画、推進。2019年4月から、新しく設立されたデジタルヘルス事業を中心とする上海星康鏈科技(HCDL)の最高経営責任者に任命され、ヘルスケアのエコロジー共同体の構築を推進している(撮影:劉偉)

HCDLの目指すことについて教えてください。

 まず、我々は自分たちの会社をHCDLと呼んでいますが、これはヘルスクラウド・ドット・リンクから取ったものです。会社のホームぺージのURL(http://healthcloud.link/)にも反映しています。HCDLは昨年の12月に設立されたばかりです。社内スタートアップだとイメージしてもらえるといいかもしれません。現在の従業員は、約50人です。

 我々のビジネスの目的は、大きくはヘルスケア関連のトータルソリューションをお客様に届けることです。そのために、医療やヘルスケアの関連業界と深く連携したうえで、イノベーションモデルを構築しようとしています。ビッグデータやブロックチェーンなどの先端技術も活用します。

 お客様には、HCDLが手掛けていることはヘルスケアに関するITソリューションじゃないかとよく言われます。でも我々の気持ちとしては、ヘルスケアITという範疇ではなく、ヘルスケア・インダストリー・インターネットを提供したいと考えています。

プラットフォームを提供するのが我々の役割

それは何が違うのでしょうか?

 お客様のニーズを把握して、そのニーズに合わせてシステムなどを開発して納入、メンテナンスするのがITソリューションの考え方です。それは普通のITベンダーのやり方です。日本にも中国にもたくさんそのような会社はあります。

 我々は、DNAから違っています。HCDLがいつも考えていることは、プラットフォーム上で会社と会社が上手く連携して、お客様に対してトータルソリューションをいかに提供できるかということです。だから、システム自身はもしかしたらITソリューションを提供している会社と似たように見えるかもしれません。ただ、このシステムは納入することで終わるのではなく、システムを納入したときに、初めて成長が始まります。システムを納入してからそのプラットフォームを駆使して、フルサイクルの健康サービスをエンパワーメントする。それがHCDLの使命です。

 このことは、CtoMという戦略に基づくものです。BtoBやBtoCなどはよく言われますし、アリババなどが成功してからは、CtoBという言葉も徐々に出てきました。お客様からインターネット経由で、直接企業と取り引きをするという意味です。これからの世界は、お客様のニーズをいかに早く汲んでサービスや製品を提供できることが勝負の分かれ目です。我々はCtoBを若干直して、CtoMと表現しています。Mはメーカーという意味です。メーカーというのは、製品とサービスを提供する側のことです。

 そして我々はこの「to」のところが非常に大事だと思ってます。CとMをつなげるところです。お客様のニーズをいかに収集して、分類して、ラベルリングして整理する。そしてM側はちゃんとお客様のニーズを分かるようにする。こういったプラットフォームが非常に重要です。

具体的には、どのようなプラットフォームを築こうとしているのでしょうか?

 例えば、どこか分からない場所に行きたかったら地図のアプリを開く、あるいはどこかのレストランに行きたかったらグルメのアプリを開く。それと同じように健康に関することはすべて我々のアプリを開くことから始まる、そんなシステムを構築できるプラットフォームを目指しています。お客様は都市に住んでいるので、この全体を「スマートシティーヘルスエコシステム」と呼んでいます。

 1つの都市を考えたときに、健康に関するものとしては薬局とか医療サービスや保険などいろいろあります。例えば、これらの実業は、復星集団(フォースングループ)*1でもいろいろ手掛けています。我々が目指すのは、自分自身でも自分の子どもでも、健康に何かがあったらこのアプリを起動する。アプリを通じて質問をしてみたり、あるいは医療サービスを探してみたりする。そういう環境を提供したいのです。

もう少し仕組みを詳しく教えてください。

HCDLが描くスマートシティーヘルスエコシステムの概要(出所:上海星康鏈科技)

 全体的なサービスは、クラウドの仕組みを利用して構築します。いわゆる、IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)に分けて運用をします。このうち、HCDLは主にPaaS、すなわちプラットフォームの部分を構築する役割を担います。アプリケーションが稼働するためのデータベースやプログラムの実行環境などを提供します。

 IaaSの部分に関しては、我々もよく分析しました。ご存知のように、「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」や「マイクロソフト・アジュール(Azure)」、「アリババクラウド」など、すでに何社かで80パーセントぐらいのシェアを取っています。この分野でいくら戦っても意味がない。ですから、ここの部分はほかのサービスを活用します。

 SaaSの部分に関しては、現在、いろいろな会社がサービスを考えています。彼らの力をできる限り合わせられるようなプラットフォームを考えれば、中国ナンバーワンの健康クラウドができる。それがHCDLの狙いです。そのために、フォースングループはいくつものソフトベンダー、主にはスタートアップですが、彼らに投資もしています。

診察データや処方箋の情報を皆で活用可能に

PaaSの部分には、どのようなことが求められるのでしょう?

 ここの情報を整理することが、システムの肝とも言えるでしょう。健康領域のPaaSにはどんな部品が求められるのかを、我々は徹底的に考えました。HIE(ヘルスケア・インフォーメション・エクスチェンジ)の部分です。いろいろなSaaSで必要される健康情報を、PaaSに整理して定義して、そして収納してあげる必要があります。

 例えば、いろいろな医療サービスが管理している情報があります。今までカルテなどの診断情報は個々の医療サービスが持っていて情報共有されていなかった。どのような情報が必要になるかを整理して皆が活用できるようにすれば、もっといい診断ができるかもしれない。薬の処方箋の情報も同様です。これまで処方されてきた薬がトータルで分かれば、個々のお客様にとっても次の診断の際の参考になるし、また製薬メーカーからすれば、貴重な臨床データとして使用できます。

 HCDLが目指しているのは、繰り返しになりますが、健康に関するサービスを提供する際の、プラットフォームになることです。SaaSであるパートナーが我々のプラットフォームを使ってサービスを提供するというモデルです。パートナー側からすれば、何かのサービスを開発したらすぐにほかのパートナーと組むことも可能になります。そのようなエコシステムを構築したいと考えています。そうすれば地域の健康情報プラットフォームになれる。

(撮影:劉偉、以下同)

HCDLのプラットフォームが活用される、具体的なイメージを教えていただけますか?

 我々は政府のニーズがどこにあるのかというのを分析しました。そして、それらのニーズに、いくつかの分野で貢献できると考えています。

 その一つが「分級診療システム」です。中国では、病院にランクが定められており、低い方から1級、2級、3級の3ランクがあります。政府としては、例えば軽い風邪などはまず1級病院から診療してもらって、そこで解決しなければ2級、3級と段階を踏んでもらいたい。この分級診療システムを定着させたいのですがあまりうまくいかず、皆が3級病院に行って混雑しているというのが現状です。

 もし我々のシステムを利用してもらえれば、地域の病院同士で患者のデータが共有できます。例えば、最初は3級病院で診断してもらい、薬に何を出したかなどの情報を共有する。2回目、3回目からはその情報が1級病院でも確認できるので、それを元に処方ができれば患者も安心ができる。高血圧とか糖尿病などの慢性病に関しても、1級病院で安心して治療ができるようになります。

 このときに、処方箋データを安全に共有できるシステムが必要になってきます。3級病院で出してもらった処方箋は、ちゃんと他の薬局にも安全に流していかなくてはいけません。我々のプラットフォームではブロックチェーンの仕組みを利用して、安全性を担保しながら情報を流通させられます。3級病院で出した処方箋データを、1級病院でも安心して活用ができます。

 政府が進めている「家庭医者システム」の後押しも可能です。家庭医者システムというのは、個々の市民に対して担当の医者を決めているシステムです。病気になった場合は、基本的にはその担当の医者を訪ねてもらうようにする。ほとんどの場合は1級病院の医者です。ただこのシステムも、4年ぐらい前から制度化されているのですが、まだ活用されていない。やはり患者は大きな病院に行きたがるし、たとえ1級病院を訪ねたとしても、その患者の情報が全くないので一から質問をして診察をしなくてはならずに手間がかかる。

 我々のプラットフォームがあれば患者の情報が分かるので、何かあって診療に訪れた場合でも、これまでの病院に行った履歴がすぐにわかります。スムーズに診療できるようになるのです。

地方都市で実証実験、シナリオを作る

HCDLのやろうとしていることは、中国政府がやろうとしていることと、ベクトルが一緒ということですね。だからそこにビジネスチャンスがあると。

 そのとおりです。このようなプラットフォームができれば、政府とも話ができます。私たちのグループにも病院はありますが、それも含めて1つのソリューションになったら政府も喜ぶし、市民も喜ぶし、関連会社もある程度の利益になる。そういうウィンウィンウィンの関係を作ろうとしています。

 そして今は、成功事例を生み出すために動きだしています。実際に動いてみて、成功シナリオを作り出せば、さらに横展開がしやすくなると考えています。

具体的には、どのようなことをやっているのでしょう?

 実際、中国全土でいろいろやり始めています。例えば江蘇省徐州市での淮海医療グループとの取り組みがあります。淮海医療グループには、1つの 3級病院、その下に4つの2級病院、11個の1級病院があって、これが医療集団になっています。この医療集団のデータのプラットフォームを作りました。16病院のデータが全部つながるようになっています。そこでいろいろなことの検証をし始めました。データが単につながっただけでは、ソリューションとは言えないからです。

 ただ、現状は16病院のデータが何か他のソリューションに使われるというところまではいっていません。16病院のカルテなどのデータがプラットフォームに集められ、それを病院の先生が閲覧できるところまではきています。すなわち、3級病院の診断データが、1級病院で閲覧できるようになっています。一般の市民の方が、スマホのアプリを使ってサービスを使えるようになるまでは、もう少し時間がかかりそうです。

今回のプロジェクトは徐州市から支援は出ているのですか。

 出ていません。ただ、今回の事例が成功したら、これをもって徐州市全体に展開しようとしてます。徐州市とすでに話はし始めていて、彼らも非常に注目をしています。

このようなプラットフォームを成立させるためには、健康に関するデータがすべて電子化されていることが前提だと思います。病院の診察データの電子化は進んでいるのでしょうか?

 中国政府がそのあたりは考慮しています。現在、3級病院に対しては、2020年までにすべての電子カルテの活用レベルを再評価することが定められています。このあたりの制度も、我々のプラットフォームの追い風になっているように感じます。

 もちろん、ほかのITシステムベンダーも各病院に電子化の提案をしていて競合になっています。ただ、先ほども言いましたが、我々は同じレベルの提案をしているわけではありません。我々のシステムはプラットフォームとして導入して、初めてスタートとなります。いろいろSaaSのサービスがあとから加わって、どんどん病院も利用者も便利になっていきます。

 現在は、自分のところでデータ化している病院も少なくありません。ただし、今のデータはアイランドになっている、要するにつながってない。これをつなげて、最終的にそれに携わる産業の力を駆使して、ビジネスを上手く回すことが狙いです。

徐州のお客様はフォースングループの傘下にある病院で、そのような病院で実証すれば、いろいろなシナリオが検証できるかと思います。そのほかに、SaaSのサービスとしてはどんなものが考えられますか。

 病院もそうですが、フォースングループでは健康に関わるサービスを手掛ける企業に多く投資しています。例えば、美容ケアのサービスを手掛ける会社、漢方薬品を販売している会社、整形美容を手掛ける会社、子どもの健康サービスを専門に手掛ける会社、歯医者などです。実際には、これらのサービスを手掛ける会社も我々のプラットフォームを使ってもらって、データを有効利用してもらうと共に、データの種類や精度などの要望を挙げてもらい、よりみんなが使いやすいデータ構造を追求していきたいと考えています。

 また、関連企業だけでなく、他の企業との連携も行っています。例えば、スマートホームを手掛けている華為や小米科技(シャオミー)とは密に情報を交換しています。スマートホームを構成する彼らの製品の中にソフトを組み込んで、いわゆるウェラブルで健康状態のデータを取り込んで、病院の診察データと照らし合わせてみる。そこではいろいろな分析ができ、例えば睡眠状態と病気の関連性がわかるかもしれません。

アプリ提供は来年を視野に

先ほど、プラットフォームが有効活用されるシナリオとして、3級病院の診療データを2級病院、1級病院で活用して、診察が効率化されるという例をお話ししていただきました。ほかにもわかりやすいシナリオがあれば、ぜひ教えてください。

 では薬について説明しましょう。例えば、患者が少し距離の離れた3級病院で診察を受けると想定しましょう。そこで診察を受けて処方箋を出してもらう。まずその処方箋を使用して薬局で薬を出してもらう。薬がなくなれば、次からは近くの1級病院で診察を受けてもいいし、あるいはインターネット診察を利用していいかもしれない。インターネット診察の場合は、処方箋を出すとともに、そのQRコードも発行する。薬局では、QRコードを提出すれば必要とする薬が受け取れるわけです。

 このプラットフォームが中国全土で広がれば、たとえば田舎に帰省している場合でも、遠隔地でインターネットで診断してもらえるし、薬も受け取ることができる。非常に便利ですね。インターネットで診断をする病院は現在増えていて、200以上の病院が登録されていると聞きます。

実際にユーザーが使えるアプリは、いつ頃から提供する予定でしょうか?

 2020年には出したいと思っています。先ほども申しましたが、健康に関することは、すべてこのアプリを入り口にしてほしいと思っています。ですから、健康に関するサービスを手掛ける会社は、我々のプラットフォームにあるデータを使用してほしいし、そのサービスの入り口は、我々のアプリにしてほしい。

 ですから我々のアプリにはいろいろなチャネルを持たせる予定です。病院のチャネルや薬のチャネルは当然ですが、Q&Aのチャネルやインターネット診断のチャネルなど様々です。

 一つ計画しているのが健康カレンダーというチャネルです。健康に関する家族の日程をすべて健康カレンダーで管理する。例えば今日はお父さんが病院で行く日ですよとか、お母さんは皮膚科に行く日ですよとか。病院の予約システムと連動することも可能ですから、通院忘れを防ぐこともできます。

このようなプラットフォームは、中国はもちろんですが、海外でも有効だと思います。今後、海外に広げていくといった計画はありますか?

 現段階考えていません。まずは中国で熟してからでしょうね。ただ、いきなり先進国に進出するのは無理かもしれませんが、場合によってはASEANとかアフリカとかに進出することは可能かもしれません。サービスは限定的になるかもしれませんが。

御社のプラットフォームを構築するうえで、何か日本企業が活躍するシーンは考えられるでしょうか。

 技術で進んでいるところは是非連携したいです。例えばウェアラブル端末を利用して、データを収集するとか。このように、我々ではカバーしきれないハイテクな分野での連携が1番自然です。繰り返しですが、我々はプラットフォームを提供するので、そこに連携できるものがあれば考えていただきたいです。

*1 復星集団(フォースングループ)
1992年に設立。コングロマリット型経営を目指し、現在ではその傘下に保険、不動産、鉄鋼、小売りなどを幅広く抱える。海外投資にも積極的で、2013年にはニューヨーク市のランドマークに指定されていたワン・チェース・マンハッタン・プラザをJPモルガンから7億2500万ドルで買収。日本でも2015年に北海道の星野リゾートトマムを買収して話題になった。さらに、2016年にはイングランドのプロサッカー2部リーグのウォルバーハンプトン・ワンダラーズを手中に収め、その後、豊富な資金力で有力選手を補強し、2017―2018シーズンには2部リーグに優勝して1部リーグ(プレミアリーグ)に昇格。2018―2019シーズンにはプレミアリーグで20チーム中7位と、昇格組としては大躍進した。
2018年は売上高が1093憶元(約1兆7000億円)、純利益が134億元(約2100憶円)、総資産が5300憶元(約8兆5000億円)だった。10年間のCAGR(年平均成長率)は約26%。フォーブス誌が発表する「世界の有力企業ランキング」でトップ500に属している(フォーブスのランキングは、売上高に加えて利益や資産、市場価値の4つの要素を考慮して決められる)。

(タイトル部のImage:劉偉)