「無償でもいいから活動を支援したい」――。こうした輪が広がり、業界にとらわれない様々な分野の多くの専門家がボランティアとして加わっていく。その輪の中心にいるのは、大学卒業後すぐ、Join for Kaigoを起業した秋本可愛氏だ。一人ひとりが動きだすことで次世代の介護を変えていくことを目指し、様々な活動を進めている同氏に話を聞いた。

(聞き手は小谷 卓也=Beyond Health)

秋本氏(写真:剣持 悠大)

学生時代のアルバイトがキッカケに

大学を卒業してすぐ、Join for Kaigoを設立したと聞いています。

 私は商学部のマーケティング学科に在籍していたのですが、サークル活動の一環で認知症をテーマにフリーペーパーを制作することになったんです。その制作過程を通じてより認知症について知りたいと思い、大学3年のときに介護のアルバイトを始めました。

 仕事自体は非常に楽しく、社会的なマナーや介護の奥深さも学ぶことができましたが、現場の課題に直面したのも事実です。私がいた施設では、2年間のうちに私が上から2番目になるほどとにかく人の入れ替わりが激しく、被介護者の家族も介護と仕事の両立に悩まれているなどの問題を抱えていました。

 そこで感じたのは、何か1つの問題に取り組めば解決するといった単純なものではないな、ということ。ならば、さまざまな場面で課題解決に関わる人が増えたらいいのではと発想したのです。それが、現在の活動の核となっている、超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ「KAIGO LEADERS」の原点です。

 私自身、それまでまったく接点がなかった領域にたまたま足を踏み入れた人間だからこそ、いろんな課題に気づくことができたのだと思います。あと、フリーペーパーで企業の協賛を獲得するなどの活動をしたことも大きいかもしれません。今思えば起業ごっこのようなものですが、もっと自分でやってみたいと。むしろ、3年後、5年後のキャリアを考えて仕事を選択する気持ちには至らず、「今やりたいことをやる」といった気持ちが強かったので、周囲が就職するのと同じ感覚で卒業後すぐに起業したのです。

リーダーとは、1人のカリスマのことではない

「2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになる。」を企業ビジョンとして掲げていますね。

 この言葉を掲げたのは起業したての頃。学生時代からいわゆる2025年問題が取りざたされ、介護の問題がますます深刻化する、危機的な状況になると言われてきました。私は2025年に35歳を迎えますが、社会の中心となって活躍するためにどうあるべきかを考えたのがきっかけです。

 学生時代の介護施設でのアルバイトでは、介護する側の自分がどのように接するかで、被介護者、または被介護者の家族の方々の人生が決まってしまうような重みを肌で感じました。例えば認知症を患っている被介護者の中には、自分の言葉を自らの意思で発することができず、思うように活動することすらできない人もいます。その課題に思いやりを持ち、何とかしてあげようと奮闘する現場のプレーヤーたちが、どのようにしてリーダーシップを発揮できるか。そのアプローチを探ることが非常に重要だと気づいたのです。

 ですからビジョンに掲げているリーダーとは、強力な指導力を持つ1人のカリスマのことではありません。現場でリーダーシップを発揮できる、一人ひとりの人たちを意味しています。

2019年7月に開催したイベントでのゲストと運営メンバー(出所:Join for Kaigo)

 今では介護領域にはさまざまなマーケットから事業者が参入してきていて、サービスが飽和気味です。でも、最もニーズを知っているのは現場に他なりません。介護や福祉と真摯に向き合った先に、介護だけではなく他の人も幸せに暮らせるような地域環境が少しずつ生まれ始めています。そう考えると、私たちが介護領域で新たなアクションを起こせば、社会全体がそれぞれの地域ごとに豊かになっていくのではないか。そうした思いをこのビジョンに込めています。

Join for Kaigoの構成メンバーは?

 現在、社員6人と業務委託2人。ただ、KAIGO LEADERSのイベント運営は、多くのプロボノ(ボランティア)に支えられています。具体的には、介護職や医師、看護師、専門職、PR、営業、ライターなどのそれぞれの分野の専門家が、業界にとらわれず集まり、空いている時間で貢献できたらとの姿勢でジョインしてくれています。

 それぞれ広い意味で介護に課題意識を持っていたり、何か行動を起こしたいと考えていたりする人たちです。元々はイベントの参加者だった人たちが、「無償でもいいから活動を支援したい、運営したい」との気持ちでジョインしてくれるケースがほとんどです。弊社の取締役は大手介護事業会社の採用部門の部長を経験した人物なのですが、実は彼も最初はイベントの参加者なんです。

高校生から60代までが分け隔てなく

KAIGO LEADERSのイベントは、具体的にはどのようなものですか。

 大きく2つあります。セミナー形式で行う“まなぶ場”の「PRESENT」。そして、ワークショップ形式で行う“つくる場”の「KAIGO MY PROJECT」です。

 PRESENTは隔月開催で、自分たちがどのようにこれからの社会を生きていくかについてさまざまなテーマを設定し、学ぶ環境を提供しています。毎回、業界内外のトップランナーを講師に招き、100人近くが参加します。

 いわゆる一般的なセミナー形式ではないところがポイントです。私自身、普通のセミナーだと寝てしまいますから(笑)。ある研究で、一方向の講義形式の学習効果は非常に低いとの結果が出ています。とくにハードな仕事が終わってから30分以上、一方的に話を聞くのは結構しんどいじゃないですか。

PRESENTのグループワークの様子(出所:Join for Kaigo)
PRESENTでのケータリング。未来の介護食をコンセプトにしたとのこと(出所:Join for Kaigo)

 なのでPRESENTは、30~40分の講演を聞いた後に同じテーブルでグループワークをします。それを繰り返して、その後に自由に交流できるフリータイムに突入するのです。普通だと懇親会までに一旦時間が空いて、しかも別費用だったりしますよね。それだと若い人は参加しませんし、そもそも介護の現場職は名刺を持っていません。最初から分け隔てなくつながれる機会を与えたいのです。ここではイベントの開場と同時にごはんを食べ、みんなで会話をしながらつながることができます。

参加者のターゲットは若い人なのですか?

 決して若い人たちだけが集まるイベントとは考えていませんし、どちらかと言えばミドル層が関心を持つようなテーマを設定しています。20~30代前半の参加者が多いものの、年齢制限などはしていません。先日のPRESENTでは、下は高校生から上は60代の方もいらっしゃいました。

 過去のPRESENTで山本雄士先生(ミナケア 代表取締役・医師)を招聘しました(関連記事)。運営側としては「この領域のトップランナーが何を考えているのかを学びたい」との気持ちからお呼びしたのですが、現場で働く(若い)職員は山本先生がトップランナーであることすら知りませんでした。しかし、直にトップランナーの言葉に触れることで、これから何をすべきかを考えるきっかけになることを実感しました。ですから、イベントに足を運んでもらう若い人はどんどん増やしたいと考えています。

3カ月後には何らかの行動を起こせる状態にする

もう一つの「KAIGO MY PROJECT」は。

 PRESENTはいわゆるイベントなので、翌日から参加者は日常に戻ります。意識を高く持っていても行動に移すのは難しいと考えました。そうした人たちの課題意識を変えたり、行動を起こしたりするためのプログラムがKAIGO MY PROJECTになります。

(写真:剣持 悠大)

 介護職をはじめ、いろんな職種の人たちがそれぞれの課題意識や思いを持ち寄りながらアイデアを話し合う場です。基本3カ月/全6回のワークショップを行い、3カ月後には何らかの行動を起こせる状態にすることを目的としています。

 プロジェクトは起業や新サービスなど、インパクトが大きいものに限りません。むしろニッチなこと、現場の人だからこそ気づく課題をテーマにすることが多い傾向にあります。

 ある介護職の人は、朝出社すると入居者のリスクや現状を情報共有することから始めねばならず、それで気分が重くなることに頭を悩ませていました。一方で現場には、ほっこりする、にやりとするエピソードも数多くあります。なので「ひやりはっと」ではなく「にやりほっと」な出来事を共有するプロジェクトを立ち上げ、実際に現場の中で回し始めています。他には、「ドクターメイト」という介護施設向けの医療相談チャットサービスを立ち上げた医師もいます。

KAIGO MY PROJECTの様子(出所:Join for Kaigo)

 何か新しいことを始める際には足場が強固であることが肝心です。このKAIGO MY PROJECTにはチャレンジしても大丈夫という安全・安心で、背中を押してくれる雰囲気があります。現場には一緒に働く職員はいても、なかなか自分の思いを共有することが少ないんです。私たちは会社を離れたコミュニティでフラットに関われる環境を増やしていきたいのです。

上の世代が作ってくれた良質な実践事例をいかに標準化していくか

KAIGO LEADERSのイベント以外で手掛けていることは。

 並行して、危機的な人材不足に悩む介護業界向けのコンサル事業として「KAIGO HR」をスタートさせました。大手事業者なら当然採用担当者がいますが、零細~中小の事業者はすべての業務を兼務しており、とにかく現場が最優先になります。他の業界でさえ人材確保が厳しくなってきている中で、採用をより一層頑張らなくてはならない状況なのに、採用に割けるリソースや知恵がないのが実情です。その結果、人が採用できず、定着しない悪循環に陥っています。

 そこで業界団体や行政と連携しながら、採用に向けたノウハウを知ってもらうためのセミナーなどを開催し、個別で採用コンサルティング、育成支援などを手がけています。昨年関わった介護施設で新卒採用を支援したところ、目標をすべて達成することができました。まだまだ介護の採用でもやれることはあるんだということを数字で証明することができ、私たちの自信にもつながっています。

最後に、今後の展開を教えてください。

 まずは、2020年までに全国主要8都市に展開することが短期の目標としています。2019年8月からオンラインコミュニティを開始して、その輪を広げていく予定です。1万人の介護リーダーのプラットフォームになれば、その先に10人、100人の広がりがあります。意志を持った人たちが情報交換して、積極的に交流していける環境を整備していきます。

 介護も地域づくりも解はないと思うんです。結局のところ、その地域の人たちがどうしたいかで決まってきます。ありがたいことに、手本になるような実践事例を上の世代が作ってくれました。例えば、これまで講師として登壇していただいた福祉楽団の飯田(大輔)さん、あおいけあの加藤(忠相)さん、シルバーウッドの下河原(忠道)さんなどです。

(写真:剣持 悠大)

 私たちの世代のミッションは、良質な実践事例の粋を集めて、それをいかに標準化していくかということ。繰り返しになりますが、ずば抜けたカリスマがいなくても、自分たち一人ひとりが考える力を身につけることが大事なのです。さまざまな地域に相当数のリーダーがいれば、より本質的に豊かな社会になるのではないか──そんな風に考えています。

(タイトル部のImage:剣持 悠大)