ハルメク・ベンチャーズが手掛ける「おうちでドック」。自宅で数滴の血液と尿を検査して、がんや生活習慣病を調べることができる郵送型検査キットだ。一方、最適な医師紹介や看護師による健康相談チャットを提供するサービスである「clintal(クリンタル)」。スタートアップが手掛けるこれら2つのサービスが2019年7月、コラボレーションを図ることが発表された。この連携によって、検査から医師紹介(病院受診)までをワンストップで提供することを狙う。

今回のコラボレーションは、現在の健診・検診の課題をどう解決しようとするものなのか――。ハルメク・ベンチャーズ 代表取締役社長の松尾尚英氏と、クリンタルの事業を創業したJMDC(2019年4月1日付でクリンタルはJMDCに吸収合併) COOの杉田玲夢氏の対談を実施した。

(進行は小谷 卓也=Beyond Health)

ハルメク・ベンチャーズの松尾氏(右)とJMDCの杉田氏(左)(写真:川島 彩水、以下同)

ホラーストーリーかインセンティブか…

まずは、現在の健診・検診の課題認識についてお聞かせください。

松尾 国、自治体、企業の健康診断(健診)など、健診・検診率を向上する取り組みは以前から行われています。しかしそれによって受診率が劇的に伸びているわけではありません。正直、日本では医療機関に足を運ぶ行為そのもののハードルが高いと感じています。

 がんや生活習慣病の重症化によって「放っておくとこんなに危険な状態になる」との啓蒙は非常に多くありますが、必要な人に情報そのものが届いていない。そこには大きな課題があると思います。

杉田 新しい技術によって課題が解決することもあります。松尾さん(ハルメク・ベンチャーズ)が手がけている自宅検査キットの「おうちでドック」はその1つでしょう。安くてアクセスが容易ですから。それに、わかりやすく結果を提示してあげればメリット、デメリットも見えやすくなります。課題を解決しやすい施策だと思いますね。

 実際どうなんでしょう?自宅でできる検査キットがある世界とない世界だと、健診の受診率はだいぶ変わるのでしょうか。

松尾 検査の結果、検査基準値を超えている、超えていない方も含めて実際にこのキットを使った人たちにアンケートを行い300件ほどの回答を得ましたが、およそ半数は何かしら行動を変えていました。その中で病院に行った人が14%ほど。経年評価をしていないため、その数値が高いのか低いのかはまだ評価できませんが、我々の感覚としてはやはりまだ低いと感じています。

松尾尚英(まつお・たかひで)
ハルメク・ベンチャーズの前身であるフィフティ・プラス・ベンチャーズへ執行役員/ヘルスケア事業責任者として2015年 に入社。主に予防医療領域の新規事業創造、事業推進を行い、自宅で疾病リスクを検査できる郵送型検査キット「おうちでドッグ」を開発。現在さまざまなパートナー企業との提携を進めている。18年1月より現職。2015年に設立された、医療・ヘルスケアベンチャーのオープンイノベーション促進の為活動を行う一般社団法人日本医療ベンチャー協会( JMVA )の代表副理事長も現任、関係省庁や団体への意見提言や連携、事業者への情報発信等を行っている

 中には、明らかに病気のアラートが鳴っているのに病院に行こうとしない人もいる。医療機関へのアクセス向上に寄与してはいるものの、実体としての行動変容に結びつけるにはまだまだ課題が多いと思っています。

 日本の医療は非常に優れています。医療費も安いですし、どのクリニックや病院にも行けて、何より医療の質にバラつきがありません。「風邪をひいてから行けばいい」とのスタンスが、大きな病気でも同じになっているんです。

 ですが、重篤な病気は自覚症状が出てしまうとかなり進行している場合が多いのも事実。本来は定期的なチェックをする必要があると頭の中ではわかっていても、腹の中ではわかっていないということです。

杉田 なるほど。やはり大きいのは危機意識ですね。検診を受けて少し異常が見られたら、もっときちんとした検査を受けるべきと多くの人が思うはずですが、それがいきなりがんの生検となると厳しい。大掛かりな検査だと何をされるかわからない不安もありますし、痛い場合もありますから。よりライトな検査で引っかかった時点で早め早めに次のステップに進む流れを作ることが大事だなと思います。

 そう考えると検診を受けさせるためには“ホラーストーリー”(恐怖)を伝えるべきなのか、検診に行けばこんなメリットがあるよというインセンティブありきのストーリーを伝えるべきなのか。松尾さんはどちらが有効だと思いますか?

松尾 ホラーストーリーで「検診に行かないとこんなにひどくなりますよ」と伝えることも重要ですが、それだけでは救いがありません。それぞれ裏返しだと思うんです。真面目にやっている人は得をする一方、検診でチェックをしていない人は損をする、といったような。

 基本的にはポジティブな方法がいいのでは。これは突飛な案ですが、我々のサービスも、検査結果が良くなったらインセンティブとして返金される仕組みを導入するなど、ポジティブな形で次につなげていきたい。これまでとは違う付加価値によって行動変容を促進していくのは、今後のキーワードになってくるはずです。