視覚と聴覚のγ波刺激が脳の健康を守る

どうやってγ波の効果を確認したのでしょう。研究が可能になった背景には、どんな技術があったのですか?

 彼女たちの研究を可能にしたのは、オプトジェネティクス(光遺伝学)という技術です。米スタンフォード大学教授で精神科医のカール・ダイセロス(Karl Deisseroth)氏らが開発した技術で、ノーベル賞ものともいわれています。チャネルロドプシンと呼ばれる光受容体を海馬や視覚野などの観察したい脳細胞に入れておくことで、脳内の変化を可視化することを可能にした技術なのです。

 ツァイ氏らは、アミロイドβを脳内に蓄積させたアルツハイマー病モデルマウスの脳の海馬に、このオプトジェネティクスを用いて光ファイバーでさまざまな周波数の波長を照射しました。すると、40Hzのγ波を当てたときだけ、アミロイドβが45~53%減少したのです。

 次に、彼女たちが試みたのは、40Hzの白い光が点滅し続けるミニディスコのような空間にアルツハイマーモデルマウスを1日1時間入れる方法です。40Hzで点滅し続けるミニディスコで1時間過ごしたマウスでは、暗い部屋にいたマウスに比べて浮遊性のアミロイドβが半減し、1週間後には、脳内に蓄積したアミロイドβも減少しました。これによって、眼から光でγ波を当てることでアルツハイマー病が改善し、脳の健康が守られる可能性が示されたわけです。

γ波刺激で、海馬の萎縮も改善する可能性があるという結果も出ているようですが。

 はい。しかし海馬に対する働きは、眼から40Hzのγ波を照射しただけでは起きません。脳の中の視覚野という部分のアミロイドβは除去されるものの、海馬のアミロイドβ量は変化しなかったのです。僕は、2回ほどツァイ氏の研究室へ行き、慶應大にも来てもらっていろいろディスカッションしたのですが、彼女も眼からの刺激だけでは限界があると考えていました。

 そこで彼女たちが次に試したのが、音です。アルツハイマー病モデルマウスに、さまざまな波長の音を持続的に聞かせてみたのです。この研究※2の結果、40Hzの音を20分間持続的に聞かせたマウスで、聴覚野と海馬のアミロイドβの蓄積とタウたんぱくのリン酸化(アルツハイマー病の原因の一つでといわれる現象)が有意に減少しました。40Hzの音というのは、いわゆる振動音のような低いブーンという音です。インターネットで検索すると、40Hzの音が聞けるサイトもありますので、一度聞いてみてください。

 面白いのは、眼と耳からのγ波刺激を組み合わせると、視覚野、聴覚野、海馬だけではなく前頭前皮質なども含めて、脳全体でミクログリアが活性化され、アミロイドβの蓄積が除去されることです。また、視覚と聴覚によってγ波刺激を加えると、脳神経に栄養を送る細胞が増え、新たな血管が作られる“血管新生機能”も高まることが報告されています。