毎年40兆円以上の医療費、一部でも「投資」に回すべき

消費税が10%に増税されました。

 確かに、消費税の増税は必要なのかもしれません。ただし、それで医療費の問題が解決するわけではありません。消費税1%上げると税収が2兆~3兆円増えると推計されていますが、日本の社会保障費は毎年5000億円前後増え続けています。増税することで医療財源を確保できれば、問題を数年先に先送りすることができますが、医療費が今後も上がり続ければ、近い将来に再び財源が足りなくなることは明らかだと思います。

 医療費の構造改革や効率化、あるいはより多角的な医療財源の確保などは非常に複雑な問題で誰も手を付けたがりません。ただ、そこにいち早く手を付けなければ必ず手遅れになると思っています。そここそが「グレーゾーン」であり「分からないところ」なので、しっかり研究して、医療政策のエビデンスを作っていく必要はあるでしょう。

 現状、そういった研究は我々がボランティアでやっていますが、本来は国の投資で推進してほしい部分ではあります。2018年度の医療費は42兆円を超えましたが、そのうちの0.1%でも良いのでエビデンスを作る研究に回してもらえれば、医療の質を下げずに医療費を抑制することが可能となるエビデンスが出てくると私は考えています。

 仮に、医療費を1%下げられるような研究成果が得られれば、それだけで医療費は4000億円も削減できます。もし研究に100億円投資しても、費用対効果は十分に高いはずです。毎年40兆円以上の医療費を使いながら、そのすべてを「消費」しているのは問題で、ごく一部でよいのでエビデンスを作るための活動に「投資」するというようにマインドセットを変える必要があると思っています。

 ただ、現状をしっかり評価して研究するには、それなりの手間や時間がかかります。そこには年単位の時間が必要であり、簡単ではありません。しかし、単純な消費税の増税や医療費の削減は「時間かせぎ」でしかなく、その間に十分な研究に取り組み、エビデンスを作っていかなければ、事態は悪化する一方です。

 今は日本の景気も良く、財源がまだ残されているので、今うちにエビデンスを作る活動に投資するべきだと思います。あと数年したら、そういった活動に投資する財源すらなくなると考えられます。

 例えば、中小企業の従業員を中心に日本人の1/3の約4000万人が加入している協会けんぽという巨大な医療保険があります。協会けんぽは今は黒字なのですが、2024年には単年度で赤字化し、2030年前後には保険料を上げないと維持できなくなると推計されています。

 一方で、大企業やそのグループ会社の従業員約3000万人が加入している健康保険組合では、2022~2025年に保険財政が急激に悪化すると予想しています。これらの保険者は、「保健事業」という形で医療費抑制のための活動をしていますが、それらはメタボ健診のように医療費抑制効果が明らかになっていない注1)ものを広めるために用いられており、本来ならばそれよりも重要な、何が医療費抑制に有効なのかというエビデンスを作るためにはほとんど使われていません。

注1)学習院大学の鈴木亘氏らの研究によってメタボ健診による健康改善効果はないか、あってもとても小さなものである(BMIが約0.5%下がる可能性があるが、血糖値、コレステロール、血圧の改善効果はない)ことが分かっている。医療費抑制効果があるかに関する質の高い研究はないものの、メタボ健診に健康改善効果がないのであれば、医療費抑制効果も期待できないと思われる。

 自分達のやっていることに本当に効果があるかどうか分かっていないのに、なんとなく良さそうな活動をしていることで満足してしまう。これは、残念ながら日本全体によく見られる現象だと思います。