超高齢社会を迎えて健康寿命への関心が高まる中、特に三大死因の1つ「がん」予防への取り組みとして、従来のがん検診に加え、リキッドバイオプシーや線虫など新技術によるがんスクリーニング検査に注目が集まっている。早期発見・治療によるがん死亡率の低減が期待される一方、偽陽性だった場合の心理的・身体的負担、寿命に影響しない進行の遅いがんや微小がんが過剰に見つかるなどの不利益が懸念されている。厚生労働省「がん検診のあり方に関する検討会」構成員で、がん検診の有効性評価や精度管理に詳しい国立がん研究センター社会と健康研究センター検診研究部部長の中山富雄氏に話を聞いた。

(聞き手は大滝 隆行=Beyond Health)

各市区町村で行われる対策型がん検診や、人間ドックで行われる任意型がん検診を含めて、がんスクリーニングは「がんが全身に広がる前の小さな塊の段階で発見して、丸ごと手術などで取り除けば、がん死亡を免れる」という考えの下、受診が進めばがんの発見率が高まり死亡も減らせると期待されていますが、そういう認識でよろしいですか。

 そうですね。がんスクリーニングは病気の症状がない人の中から、がんの疑いがある人を拾い上げて、適切な治療につなげることで死亡リスクを低減することを目的としています。一般的に、その評価指標として、がんの発見率やがんの小型化、切除率や生存率の向上が報告されていますが、バイアスが加わりやすく最終評価指標とはなりません。例えば、がんスクリーニングには、進行の遅いがんほど定期的な検査で見つかりやすく、逆に進行が早いがんほど発見が困難であるというレングス・バイアスが知られており、発見率が高まっても進行の遅いがんだけを見つけているためかもしれません(図1)。そこで、世界的には有効性評価には死亡率減少効果という指標が求められています。  

図1●レングス・バイアスド・サンプリング(length-biased sampling)
(出所:中山富雄 がん検診−利益と不利益− 臨床と研究 2019;96:884-8.)
定期的な検査を行った場合、進行の遅いがんほど検診で発見される機会が多いが、進行の速いがんは発見される機会が乏しい。従って検診での発見率が高いことは、進行の遅いがんを発見していることであり、予後の悪い進行の速いがんは発見が困難である

 がん死亡率の減少を示す研究として、かつて症例対照研究や後ろ向きコホート研究といった観察研究が行われていましたが、セルフ・セレクション・バイアス(検診受診者は健康意識が高いため罹患・死亡リスクが未受診者よりも低い)が混入しやすいことから、最近はランダム化比較試験(RCT)が中心となっています。しかし、患者を対象とした臨床研究とは異なり、一般集団でのがん死亡リスクは著しく低いため、数万人の対象者を10年以上追跡するデザインとなることから、高額な研究費と長い研究期間を要します。これまでRCTでがん死亡率減少効果が認められているのは乳がん検診と大腸便潜血検査ですが、その効果は13〜36%にすぎません。がん検診を定期的に受診することで死亡率を半分に減らせるまでの科学的根拠はありません。