メディカルトリートメントモデルに沿った予防歯科とは

2018年6月には、分院の「つきやま歯科医院専門医療クリニック天神」を開設されました。

 ええ。つきやま歯科医院の予防メインテナンスを受けに来られる方は健康意識が高くなる傾向があり、歯のトラブルに見舞われた場合、より積極的に質の高い治療を望まれるケースが多いんですね。また、世の中には、お口全体に問題を抱え、他の医院で治療ができずに悩んでいる方、高額でずさんな歯科治療を受けて「やり直し」を希望される患者さんが大勢いる。それならばより高いニーズに応えようと専門医療に特化した分院をオープンさせました。

 分院も本院と同じく「メディカルトリートメントモデル」と呼ばれる手法に沿った予防に力を入れています。加えて、予防でどうしても避けられないトラブルが出てきた人や、手に負えない先天的な欠損があるといった方たちなどに、「最後までできる限り歯を残す」「ただ治すのではなく美しく治す」ことを大前提とした専門治療を行っています。

メディカルトリートメントモデルに沿った予防とはどういうものですか。

 メディカルトリートメントモデルは、スウェーデンのイエテボリ大学名誉教授のボー・クラッセ先生が提唱された考えです。直訳すると「医科的治療モデル」。医科では、様々な診断・診査を通じて患者さんの現在の状態をしっかりと把握した上で、疾患の原因を取り除き、症状を軽減させる。さらに、治療結果をモニタリングし、再発予防のための処置を講じますよね。それと同じようなアプローチを歯科でもするわけです。

 当院のメディカルトリートメントモデルに沿った予防歯科は、こんな具合に進みます。まずは問診や各種検査を通じて口腔内の健康状態をくまなく調べます。その際、歯を失う二大要因の虫歯と歯周病に着目し、現状を踏まえての将来リスクを数値化するようにもしています。例えば、虫歯のなりやすさが100の段階で60ぐらいであるといった具合です。そうして患者さん自身に口腔内の状況を把握してもらった上で、検査結果に基づき、治療計画や予防プログラムを立案し、応急処置などを経て、治療、評価、定期メインテナンスへと進んでいきます。つまり、一人ひとりにあった治療・予防方法をオーダーメイドで組み立てて実践しているのが特徴です。

現状では、歯を定期的にメインテナンスし、クリーニングする予防歯科は、保険診療の適用を受けられるケースと受けられないケースの両方が存在しています。つきやま歯科医院はどういう運用をされていますか。

 以前は一部保険診療で行っていましたが、2017年1月からすべて自由診療に切り替えました。予防歯科が保険の適用となるかどうかの境界線はあいまいなところがあるのも事実です。経済産業省が所管する産業競争力強化法の「グレーゾーン解消制度」に基づき、厚生労働省は2015年4月に、歯科医師が虫歯や歯周病に罹患していないと判断した人に対する予防メインテナンスは療養の給付に含まれない、つまり保険診療の対象にならないことを明確化しました。けれど、「歯周病の疑い」や「虫歯の疑い」があれば、保険診療の対象になるとも見なされています。だから今でも多くの歯科医院が「疑い」の名のもとに、保険診療で定期メインテナンスを行っているのが実情です。

 ただ、厚労省の通達を読む限り、虫歯や歯周病が治った人たちや、もともとそれらの病気がなく安定している人たちへの予防的な健診やメインテナンスはやはり健康保険の適用外と解釈できるので、当院では一定の準備期間を経た後、全額自費での取り扱いにしました。

自由診療にすれば、患者数の減少にもつながりかねず、切り替えには覚悟が要ったと思うのですが。

 実際、患者さんはがくんと減りました。2016年の12月までいわゆるメインテナンスの来院患者さんは、年間4000人近くいたんです。ところが自由診療になった2017年1月以降、その半分ぐらいまで徐々に減っていきました。今は少しずつまた戻してきていますが。

 自由診療にすれば、経営的に痛手となるのは、もちろんわかっていました。でも患者さんに口の中の重要性を分かってもらうには、全額自費に挑戦すべきだろうとも考えていたタイミングだったので、決断しました。

あえて全額自費に挑んだと。

 そうですね。歯科先進国の中でとくにアメリカは顕著な例ですが、歯科の治療にかかる費用はとても高額です。治療が高額だから、その分、歯は高級なものと認識されていて、最高のアクセサリーと称されることもあります。きれいな歯は仕事や人生に大きく関わっているとも考えられており、予防歯科を目的に子どもの頃に矯正歯科治療を行うことは親の使命のようにもとらえられています。そんなアメリカは予防にかかる費用は低めに抑えられている。そのため、高額な治療費がかからないように、定期的な歯科のクリーニングや検査を受けることが習慣づいているんですよね。

 一方で日本の場合、歯科の治療は健康保険の適用となるので、安価で受けられます。そのせいか、「悪くなったら、治療すればよい」「痛くなってから、歯医者に行けばよい」という風潮が定着してしまっています。

 結局、その国の医療制度が国民の健康に対する意識・考え方を導いていくんですよね。他国によく見られる「予防は保険でカバーします。しかし治療は自己責任で」という制度ですと、アメリカと同じく「歯は高級なものだから大切にするために予防に行こう。予防は給付もしてくれるし」という考え方になるわけです。ただ、日本の制度の方針は逆ですので、それならば当院では予防を完全に自由診療とすることで、逆説的になりますが、「健康を守り育てる予防はとても大切なものなんだ」という価値観を持ってもらえたらと考えました。