日本で予防歯科に健康保険が適用されるには

話が横道にそれますが、国は1989年から80歳で自分の歯が20本以上ある状態を目指す「8020(はちまるにいまる)運動」を推進し、その結果、当初7%程度だった達成者率は、2016年調査では51.2%と半数を超えました。それについて、先生は「現場としてはギャップを感じる」とも発言されています。

 ええ。当院では8020を達成している方は大勢いらっしゃいます。けれど、日本全体で5割を超えているとはなかなか思えません。実際、調査結果をよく見ると、8020の達成者率は75歳以上85歳未満の調査結果から推計したもので、75~79歳の数字が含まれている。だから率も高く出がちです。一方、海外のある調査結果では、80歳の時点で残っている平均的な歯の本数は、スウェーデン21本、アメリカ19本、そして日本が12本と報告されていて、こちらがリアルな状況に近いと感じています。

 また、80歳の日本人に残存している歯はどんな質なのかといえば、治療痕だらけで、かなりボロボロ。健全な歯ではないんですね。厚労省の調査でも後期高齢者の8割以上が入れ歯のお世話になっていることは明らかになっています。

 ですので、今公表されている8020に関するデータは結構怪しいなというのが私の印象です。そもそも8020は1989年に立てられた目標で、当時の平均寿命は78.8歳だったので、その時分では相当野心的なものだったとは思うんです。けれど、2017年のダボス会議などで、2007年生まれの日本人の50%は107歳まで寿命が延伸すると言われ、「人生100年時代」の到来は間近に迫っています。そんな中、28本ある永久歯をすべて保って、人生目一杯、自分の歯で食べて、話して、笑うことができるようにしていくところをこれからは目指すべきです。

とはいえ、日本ではまだまだ「年をとれば歯を失うのは仕方がない」と考える人が多いのではないでしょうか。

 その通りです。けれど、だからと言って、健康意識が低いなどとして日本人の個人個人を責めるのは違うかなとも思っています。今の状況は環境の責任が大きいというのが私の持論です。歯を失うのは、歯を大切にしないから。先ほども述べましたが、その背景には日本の医療保険制度の課題が横たわっています。歯科も医科も、病気になった途端、保険給付を受けられ、公的サポートが手厚くなります。すると、病気になった方がお得感があるので、病気になってからしか受診しないメンタリティーがどうしてもできてしまうんですよね。

 もっとも、制度はすぐには変わりません。日本で予防歯科に広く健康保険が適用されるには、健康な人に対してこういう予防的介入を図れば、これだけの効果があるというデータがしっかりとそろっていなければなりませんが、今は日本独自のデータは数少ないのが実情です。それもそのはず、健康かもしれない患者さんでも必ず歯周病や虫歯の疑いという病名をつけないと保険診療ができないので、純粋に健康な人に対する予防的介入効果が見えにくくなっていて、正確なデータが取れていないんですよね。

 今いくつか民間の保険会社が予防歯科をカバーするような保険の販売を考えている動きがあり、私もあるプロジェクトにアドバイザーとして関わっています。そうしたデータが集積して予防の効果のほどが明らかになれば、もしかしたら健康保険適用の道が開けるかもしれませんが…。