「チョコレート歯科」と名付けた理由 

日本の医療制度がそう簡単に変わりそうにない中、築山先生がこの先、目指すのはずばり何ですか。

 様々なところと手を携えながらオーラルヘルスの輪を広げて予防の価値を浸透させ、ゆくゆくは歯科先進国のアメリカやスウェーデンのようにメインテナンスのために歯科医院を定期的に受診することが当たり前となって、それを文化として根づかせていきたいと思っています。

 お口の不健康は糖尿病、心臓や脳の血管障害、認知症など全身の様々な疾患に関わっていることは国内外の研究からも明らかになっています。ですので、医科歯科連携もこれからもっともっと社会保障の中では価値のある取り組みになるでしょう。

 ただこの連携はいわゆる手紙を交換するだけの、表面的なやりとりをするだけのものではありません。歯科診療所は患者さんの全身状態が健康でも継続して訪れる唯一の医療機関なので、これからは私たちが新たな全身の健康ステーションとしての役割を担える可能性も十分にあると思っています。だからこそ歯科医療従事者は謙虚になって自ら近所の医科の先生方と積極的な交流を計って、当事者意識を持った取り組みがこれから必要だと考えています。今、福岡県の有志で「FUKUOKA医科歯科連携プロジェクト」チームを立ち上げて、私たちから医科の先生方の門を叩いていく準備をしています。

確かに、文化として根付かせるためには幅広い層へのアプローチが欠かせません。

 ええ。だから院内だけでなく院外に出ての活動もとても重要だと思っています。目下、力を入れているのは、行政と組んでの地域社会へのアプローチです。どの世代もお口の健康づくりは大切ですが、子どものころからきちんと予防を行えば、何歳になっても健康な歯でいられる可能性がぐんと高まります。ですから、子どもが自ら進んで歯を大切に守る行動を取れる仕掛けができないか、地域のキーパーソンらと積極的に話をしています。

 私はアメリカの大学で学んでいて、向こうの歯科先進国ぶりを目の当たりにしてきましたが、日本人が一番弱いなと思ったのはデンタルフロスの活用です。アメリカでは、歯磨きとセットでフロスを使わないなんて、「信じられない!気持ち悪い!」というぐらい浸透していて、子どもも器用にフロスを使いこなしています。でも日本はフロスが普及しているとは言い難く、大人も子どもも習慣化している人は恐らくごく少数でしょう。

 口の健康を保つには、正しい歯磨きに加え、フロスを使って歯間の詰まりを取り除くことが基本中の基本。ですので、フロスの活用に向けて、例えば学校にフロスを用意しておいて、その使い方が書かれたポスターを見ながら生徒たちは給食の後にフロス磨きをするとか、そんな時間があってもいいのではといったことを提案しています。

 実はアメリカでは数年前に「フロスダンス」と呼ばれる踊りが大流行しました。斜めに伸ばした腕と腰を交互に振るというものですが、デンタルフロスを使う動きに似ているから、その名がついた。テレビやネットで頻繁に登場し、子どもから大人まで夢中になりました。

 これを応用して、自治体で実際にフロスを使ったダンスを作り、首長が自ら踊った動画を「YouTube」などにアップしてうまく広めていく。そんなやり方もあるのではという話もしています。

 あと、お口の健康を保つ上で大切なのは、食事の内容と食べ方です。これも学校教育の場で正しく伝えてもらいたく、当院としては協力を惜しまない考えです。

 食生活において甘いものの摂り過ぎは厳禁ですが、甘いものを食べたからといって虫歯になるわけではありません。歯を悪くするのは、特定の食べ物というより、むしろ食べ方の問題が大きい。

 私の友人は、「チョコレート歯科」という名のクリニックを開業しています。チョコレートなんて虫歯になりやすい食べものの筆頭格なのに、よくもまあ歯科医院の名前に入れたものだと思われた方がいるかもしれません。でも彼はあえてこのネーミングにしたんですね。

 クイズではありませんが、1枚の板チョコを8つに割って1切ずつを1日8回食べるのと、午後3時のおやつタイムに板チョコ1枚を丸ごと食べるのでは、どちらが虫歯ができやすいか。前者の方が虫歯になりやすいんですよね。虫歯の栄養源になる糖分が口の中に長い時間とどまっているので。つまり、こうした「だらだら食べ」が一番よくない。でも正しい食べ方の知識を持って予防にも努めていれば、チョコレートを食べたってよく、友人はネーミングにそんな思いを込めたわけです。

 案外そういう食べ方の話ってよく知られていない。だからやるべきことはまだまだたくさんあって、当院は今後も様々な取り組みを通じて広く予防の価値を浸透させて、歯を大切にする国、日本の実現に貢献したいと思います。

(タイトル部のImage:荒川修造)