重症者2割から導き出す最悪のシナリオとは

ここまで広がった感染症の収束は難しいと考えるのが現実的だとすると、私たちはどう受け入れていけば良いのでしょうか。

 確かに今、感染拡大をいかに防ぐかが喫緊の課題となっています。今後の予想は困難で、これから一気に拡大する可能性もある。夏にかけて少し落ち着くという楽観論もありますが、分かりません。もしそうだとしたら、主戦場は今年の冬になるかもしれません。インフルエンザも流行は冬。寒さや帰省などのイベントもあり、人と人との距離が近くなる。お正月の帰省シーズンには人の移動が盛んになり、帰省した子どもから高齢者に感染するケースが増えるのです。新型コロナに関しても、年末の帰省シーズンに移動を控えるかどうかという議論が起こるだろうと予想しています。

感染症対策の専門家で、国際医療福祉大学医学部 公衆衛生学教授の和田耕治氏。新型インフルエンザ流行時や途上国での感染症対策の経験を生かして、新型コロナウイルス対策に取り組んでいる(写真:新関 雅士、以下同)

 一方で、感染者の8割は他の人にうつしていないことなど、徐々に分かってきていることがあります。閉鎖空間の人と人の距離が近い中に感染者がいると、手がつけられない勢いで感染が広がるという特徴も明らかになってきました。

 今、課題だと思うのは、政府が打ち出す対策の本当の理由、すなわち最悪の被害想定シナリオが世の中の人に十分に伝わっていないことです。クルーズ船の乗客の多くは60代から80代の高齢者でしたが、クルーズで海外旅行に参加するような比較的元気な人たちだったにもかかわらず重症になった。感染者の半分は無症状で、3割は発熱や咳を伴う軽症。そして残り2割が重症化して入院が必要な状態で、そのうちの5%に人工呼吸器が装着されました。

 こうしたクルーズ船で起きたことは、これから各地の高齢者施設で起こると考えられます。すると、どうなるか──。最悪のシナリオは、重症化した患者の対応に追われる医療現場の崩壊と人工呼吸器の不足です。重症化した高齢者が多数入院すれば、集中治療室(ICU)のベッドと人工呼吸器が足りなくなる。感染力が強いので、他の病気で手術した患者、あるいは突然の交通事故に見舞われた患者を同じICUには入れられない。しかも、人工呼吸器の数には限りがある。仮に台数を増やしたとしても、取り扱いに慣れた医療従事者が足りなくなる。結果、人工呼吸器を付ける患者を選別しなければならないといった議論が起こることさえ想定されます。

 だから、なんとかして重症化する感染者数を抑えないといけないのです。それを理解して、みんなで必要な対策に従って動けば、流行のピークを遅らせることができます。新型コロナウイルスはコントロールが本当に難しい。しかし適切な治療を受ければ重篤にならずに済むという見通しを1日でも早くつけられるようにしなければならないと考えています。