看護業界に特化した「看護のお仕事」をはじめ医療・介護分野での人材紹介や人材派遣事業を展開しているレバレジーズメディカルケア。一方、看護師の人材定着サービスを手掛けるエピグノ。この2社は2020年8月、業務提携を発表した。退職した看護師を送り込むビジネスと、看護師を定着させるビジネスは、相反する関係にあるようにも見える。両社がタッグを組んだ狙いはどこにあるのか。レバレジーズメディカルケア 取締役の溝口幸治郎氏とエピグノ 代表取締役の乾文良氏に聞いた。

(進行は小谷 卓也=Beyond Health)

まずはお互いの事業内容について教えていただけますか。

溝口(レバレジーズメディカルケア) 医療・介護分野での人材紹介・人材派遣事業を展開し、現在、北は北海道から南は沖縄までをカバーしています。目指しているのは、それぞれの従事者が最適な働き方ができる世界の実現です。

レバレジーズメディカルケア 取締役の溝口幸治郎氏(写真:小口 正貴)

(エピグノ) 主力事業は看護師(ナース)のタレントマネジメントソリューション「Epignoナース」です。ナースのスキルや仕事への貢献度を可視化し、正当な評価や適切なコミュニケーションに役立ててもらうITツールとなっています。今の日本ではナースの高い離職率が重要課題となっており、有能な人材の離職を少しでも防ぎたいとの思いから開発しました(関連記事:看護師の離職を食い止めろ! スタートアップの挑戦)。

「Epignoナース」の画面イメージ(出所:エピグノ)

正直、最初は「どうなんだろう?」との気持ちがあった

それぞれナース人材を事業の対象にしているとはいえ、レバレジーズは人材の紹介・派遣、エピグノは人材の定着ですから、一見するとビジネスの面では相反する関係にも感じられます。今回、業務提携を結ぶに至った経緯は?

 Epignoナースの対象は、ナースが50人以上、病床が80床以上と、ある程度の規模の医療機関を想定しています。一方で我々はエンジニアを中心としたテック系スタートアップのため、営業・販売部門を自社で抱えて全国展開するのは厳しい現実があり、セールスのアライアンスを組める企業を探していたのです。

エピグノ 代表取締役の乾文良氏(写真:小口 正貴)

 こちらとしては、現場のナースと直接話すことができ、ナースのペインを理解している企業と組みたかった。そうなるとナース関連のソリューション、中でも人材紹介や派遣サービスが最適との仮説はありました。なぜなら退職・転職理由やエンゲージメント(やりがい)、モチベーションに詳しいからです。

 そんなとき、レバレジーズさんから提携のお話をいただきました。でも、よく考えてみると目的が相反しているわけですよね。人材紹介・派遣サービスは退職した人たちを送り込むことで利益を得て、我々は定着によって利益を得るビジネスモデル。正直、最初は「どうなんだろう?」との気持ちがありました。しかし「今後は定着支援にも力を入れていきたい」という熱い思いや、クライアントファーストの姿勢を聞いてぜひ一緒に取り組もうと決めました。

溝口 最初に乾さんとオンラインミーティングをしたときにそのロジックを聞いて「もっともだな」と。人材サービス企業としては、やはり目的からずれる部分もあります。ですが定着支援への思いは、私がメディカル事業を立ち上げた2011年から抱いていたものだったんです。

 現場を見ていると、「できることなら今の職場に残って仕事を続けたいのに、どうしてもここでは働けない」と後ろ向きに考えてしまう人たちがたくさんいます。そんな人たちに限って優秀な人材であることが多く、このままでは医療・介護業界が一向に良くなる気配が感じられなかった。

 そこで入職支援、仕事の機会の提供といった入口の先にある“人材の定着”をフォローしたいと常々考えていました。約10年が経ち、メディカル業界からの信頼度も向上した今なら、ずっとやりたかった定着支援を実現できる──そのタイミングで折よくエピグノさんのサービスを知り、二人三脚で進めようと思ったわけです。

ナースの流動性を健全化することが課題解決のカギ

問題意識とビジョンが一致していたわけですね。

 はい。同じビジョンを共有しているというのはうれしかったですね。人材サービスの世界でナースの定着に目を向けている人はほとんどいないと思っていましたから。それと、かなりスピーディーに意思決定していただいたことに感謝しています。業界的にもたいへん勇気のある決断だと感じています。弊社のメンバーも「良い会社とタッグできてうれしい」とモチベーションが上がっています。

溝口 ちょうど法人営業部が主体となって定着支援サービスに取り掛かろうとしていた時期に重なったことも大きな理由です。最適なツールを探す中でEpignoナースに出会えたのは幸運でした。弊社でもITには注力していますが、今回に関しては外部サービスを採り入れながら定着支援を浸透させるほうがお互いにとって有益だろうと判断しました。

業務提携の内容(出所:両社のプレスリリース)

 ただ、私はナースの退職をゼロにしたいなどと極端なことは考えていません。人材の健全な流動性はあって然るべき。現状の課題は、先ほど溝口さんが指摘したように不健全な退職が多いことなんです。当然、転職は人生の中で重要なターニングポイントですから、その点に関してはレバレジーズさんにしっかりとサポートしていただく。

溝口 おっしゃるとおり、明らかに需給バランスが崩れ過ぎている今の状況はそもそも健全ではない。こうした事態が続くと、いろんなところに影響が出てきます。医療機関や介護施設で働く人たちが疲弊すれば患者さんに影響が出ますし、ひいてはその家族にも影響します。

 人びとをケアするのが医療・介護であるべきなのに、環境が酷ければ本質的な仕事に従事できなくなってしまうリスクがあります。その観点で言えば、人が長く定着することは良い職場の証であり、やがてはそこで働きたいという人が出てくる。すなわち新しい採用、健全な流動性が高まることにつながるわけで、我々にとってはマイナスではありません。

 この点を理解している医療機関はナースに対する待遇も手厚く、働きやすさを重視しています。ですから、採用ブランディングにつながる取り組みとして今回のサービスを活用していただくのが効果的だと考えています。

“良質な人材採用”はコスト削減につながる

具体的にはどのようなシナジーを期待しますか。

溝口 一般的な業界では、HR(人事)部門ですでにエンゲージメントや定着支援が浸透してきています。ですが医療・介護業界ではまだまだなので、その考え方を浸透させるきっかけになるとの思いはあります。弊社の人材採用ナレッジとエピグノさんのツールを交えた上で提案することによって、よりトータルなサポートができるようになる。そこに期待したいですね。

 我々の強みはナースの定着支援であり、言い換えればそれしかできません。でも定着だけだとなかなか根本的な解決ができないのが現実です。実際、自分たちで地方に営業に行くと、人材の定着だけでは全然ニーズがないんです。「定着ももちろん大事だけど、そもそも人が足りないんだから、まずは人材を紹介してくれ」と要望されることもあって。でも今後は、人材紹介から定着支援までを一連の価値として提供できるため、理想的な協業になると考えています。

和やかに進んだ対談風景(写真:小口 正貴)

新型コロナの影響により、医療機関を取り巻く環境も変化しています。これからはますます人材にかけるコストがシビアになりそうです。

 そうですね。従来以上に人件費を精査する流れになると思います。退職や採用にかかる費用を医療現場に調査すると、想定以上に払っていることがほとんど。そこはやはり、削減の対象になると思います。短期的ではなく、中長期な視点で突き詰めると経営体質改善の1つは“良質な人材採用”になる。人手が足りないから誰でもいいという姿勢ではなく、良い人にずっと長く働いてもらいたいニーズは増えてくるはずです。

本当に実現したいビジョンに集中できる環境が整ってきた

スタートアップ同士のタッグという図式にも注目しています。社会課題解決型のスタートアップが増え、それらの組み合わせ自体で市場を構成できる力が付いてきたという流れを象徴しているようにも感じます。

溝口 そうかもしれません。ベンチャーキャピタルによる支援の方向性が広がってきたことがそれを物語っています。数年前までスタートアップは利益至上主義で、とにかくリターンを出すことが求められていました。でも今は、事業として本当に実現したいビジョンに集中できる環境がようやく整ってきたと感じています。

 人材紹介サービスは非常にコモディティ化しやすいモデルです。それだけに、新たな差異化要素を加えて強みを作り出すことが必要になります。今後は“紹介から定着まで”を基本にしたい。提携を機に、社内での変化も起こせるのではないかとワクワクしています。

 スタートアップの存在価値は、誰もできなかった、やらなかったことにチャレンジすること。だからこそ面白さを感じて人が集まってくるし、みんながついてきてくれる。レバレジーズさんとともに、我々のサービスを新しいスタンダードに成長させていきたいですね。

(タイトル部のImage:小口 正貴)